認知症の介護に悩んだら「介護のプロ」に相談を
プロによるケアで興奮や徘徊などの「困った行動」を抑制
聞き手:稲垣麻里子=医療ジャーナリスト
認知症の症状は、記憶力や判断力、見当識(けんとうしき:時間や場所、名前などを把握する能力)などの認知機能が低下する「中核症状」と、興奮や不眠、徘徊などの「行動・心理症状」(BPSD)の、大きく2つに分けられる。BPSDはすべての認知症患者に表れるわけではないが、患者の世話をする介護者にとってストレスとなりやすい。中核症状の進行を抑え、BPSDを予防して、患者本人や家族が苦痛なく穏やかに過ごせる時間を長くすることが認知症治療の目標となる。BPSDの悪化による入院患者を多く受け入れている和光病院(埼玉県和光市)院長の今井幸充医師に、認知症の薬物療法やBPSDへの対処法について聞いた。認知症の第1回は「認知症対策は『予備軍』の段階から」、第2回は「もしかして認知症?と思ったら専門機関へ」。

和光病院(埼玉県和光市)院長
Q 75歳の認知症の夫を自宅で介護し始めて3年になります。認知症はまだ重度ではないと診断されていますが、少しずつ進行しています。最近、暴れたり、家中にツバを吐くなど、困った行動が増えてきて、いつも叱咤しイライラが募っています。同居している家族がいないので、一人で不安です。(70歳・女性)
A
認知症の症状としてよく知られているのは物忘れなどの認知機能障害(中核症状)ですが、患者さんとその家族を悩ませるのは、興奮、不眠、暴力、徘徊、幻想、抑うつなどの「行動・心理症状」(BPSD)です。BPSDは、必ずしもすべての患者さんに起こる症状ではありません。BPSDには多くの場合、身体、心理、環境、ケアの方法など、何らかの観点からの理由があります。それをうまく伝えられないのが、認知症の人の特徴なのです。
患者さんが何を訴えているのか、ご家族が想像しながら対応してあげることで、本人もご家族も楽になり、最終的には症状も治まります。適切なケアをすることが、治療となるのです。ただ、BPSDはご家族にとってストレスとなることが多く、身内であるだけに我慢ができない、うまく対処ができないような状況もあるでしょう。介護に行き詰まったときは、すべてを一人で抱え込まずケアマネジャーなど介護のプロの手を借りることが、ご家族だけでなく本人にもプラスになります。もし、まだ介護認定を受けていない場合は、主治医や地域包括支援センターに相談して、要介護認定だけでも受けておくとよいと思います。