認知症対策は「予備軍」の段階から
認知機能が衰えた「軽度認知障害」の段階から生活改善を
聞き手:稲垣麻里子=医療ジャーナリスト
認知症は、記憶力や判断力、見当識(けんとうしき:時間や場所、名前などを把握する能力)などの認知機能が障害され、生活に支障が出る様々な病気の総称。厚生労動省が2012年に行った推計では、65歳以上の日本人の15%、462万人が認知症であり、社会の高齢化がピークとなる2025年には700万人になると報告されている。さらに、認知機能の一部である記憶力が衰えているが生活に支障のない「軽度認知障害(MCI)」の人も400万人いると推計されており、この段階から生活改善などを行うことで認知症へと進行するリスクが下げられると考えられている。加齢による物忘れと認知症の違いや、軽度認知障害のチェック法などについて、認知症の専門病院である和光病院(埼玉県和光市)院長の今井幸充医師に聞いた。
認知症の第2回は「もしかして認知症?と思ったら専門機関へ」で6月5日公開、第3回は「認知症の介護に悩んだら『介護のプロ』に相談を」で6月7日公開予定。

和光病院(埼玉県和光市)院長
Q 最近、物忘れがひどくなってきました。しまい忘れや置き忘れをしょっちゅうしてしまいますし、人の顔や名前が思い出せないことも多くなりました。生活に支障があるほどではなく、年を取ればある程度は仕方ないとも思っていますが、将来、認知症にならないかと心配です。認知症の記憶障害と、加齢による物忘れはどのように違うのでしょうか。(65歳・男性)
A
物忘れは誰にでもあることで、普通は自分の体験の一部を忘れます。例えば、昨日、何を食べたかを忘れることはありますが、食べたことは覚えています。人との約束をうっかり忘れることはあっても、誰と約束したかは覚えています。一方、認知症の人の場合、昨日何を食べたかを思い出せないだけでなく、食べたこと自体を忘れてしまいます。人と約束した内容だけでなく、「約束した」こと自体が記憶にありません。このように、体験そのものを丸ごと忘れるというのが認知症の症状です。
通常の物忘れは、忘れる頻度が増えても生活が混乱することはありません。一方、認知症の記憶障害が進行すると、約束ができない、一人で電車に乗れない、お金の管理ができない、決められた時間に薬が飲めないなど、日常生活に様々な支障が出てきます。
日常生活は営めるものの、物忘れの回数が増え、明らかに記憶力の低下が認められる状態を「軽度認知障害(MCI)」と呼びます。軽度認知障害があると、認知症になるリスクが高いことが知られていますので、この段階から生活改善などを行うことが認知症の発症を防ぐために大切だと考えられています。
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