既往症がある場合、医療機関をどう選ぶ?
緑内障などがあれば、手術は「特別な処置」ができる医療機関で
稲垣麻里子=医療ジャーナリスト
国内の白内障手術件数は年間100万件を超え、様々な手術の中で最も多い。入院設備のある大病院のみならず、日帰り手術に対応したクリニックでも広く行われており、健康な人ならどの医療機関で手術を受けても安全性に大きな違いはない。しかし、既往症によっては手術の難易度が上がる場合があり、合併症を起こした場合も含め、術者の経験が患者の視力予後を大きく変えてしまうこともある。どのような既往症があると、手術の難易度が上がるのか。医療機関選びを特に慎重に行うべき症例について、難易度が高い症例の手術も数多くこなす三井記念病院眼科部長の赤星隆幸医師に聞いた。白内障の第1回は「ここをチェック!白内障手術の選び方」、第3回は「『多焦点眼内レンズ』で老眼鏡なしの生活に」で3月20日公開予定。

三井記念病院眼科部長、日本橋白内障クリニック・秋葉原アイクリニック、春日部杉浦眼科委託執刀医
Q 長い間、緑内障を患っていて、視野がずいぶん欠けています。白内障もかなり進んできたので、せめて白内障だけでも治したいのですが、手術は受けられますか。(女性・73歳)
A
緑内障の方でも、白内障の手術は可能です。ただ、ご相談者のように緑内障が進行していて、残された視野がわずかな人は、白内障手術の際に眼球に高い圧がかかると、視野が完全に失われて失明することがあります。緑内障で視野の欠損が大きい方に白内障手術を行う場合、眼圧を低く保ったまま一連の手術操作を行う必要があります。低い眼圧で超音波乳化吸引ができる手術装置(*1)を使っての手術となりますので、実施できる医療機関は限られます。
なお、緑内障があっても視野の欠損がないか、軽度の場合は、特別な装置を使わなくても手術を行えます。ただし、眼球の切開方法には留意が必要です。白目側に切れ目を入れる「強膜切開」で白内障手術を行うと、眼球の表面を覆う球結膜の切開部が瘢痕化し、将来的に緑内障の手術が必要になった場合に手術ができなくなることがあります。点眼や内服で眼圧のコントロールが難しく、将来、緑内障手術が必要になりそうな方は、黒目側から切れ目を入れる「角膜切開」での白内障手術を受ける方がよいでしょう。