「在宅死」と「病院死」、あなたはどちらを選びますか?
第1回 多くの人が望んでいるのに叶えられていない「在宅死」について考える
福島安紀=医療ライター
不治の病や老衰で人生の最終段階となったとき、あなたはどこで最期を迎えたいだろうか? 厚生労働省の調査では、国民の7割が「自宅で最期を迎えたい」と答えている。しかし、2020年の死亡者のうち、自宅で最期を迎えた「在宅死」は15.7%で7人に1人程度と少なく、約7割の人は病院で亡くなっているのが現実だ。在宅死を希望する人が大多数にもかかわらず、実現できない人が多いのはなぜなのだろうか。そもそも病院死と在宅死はどんな違いがあり、それぞれどんなメリット、デメリットがあるのか。本特集では、「後悔しない最期」の迎え方について取り上げる。
『「後悔しない最期」の迎え方』 特集の内容
- 第1回「在宅死」と「病院死」、あなたはどちらを選びますか?←今回
- 第2回「もしものときは在宅死」の希望を叶える5つのヒント
- 第3回「1人暮らしでも在宅死は選べる?」「自宅でも延命治療は可能?」在宅死の疑問解消
最期まで自由に過ごせるのが「在宅死」のメリット
あなたが末期がんの患者であると仮定して、食事や呼吸が不自由だが痛みはなく、意識や判断力は健康なときと同じ場合、どこで最期を迎えることを希望するだろうか? 厚生労働省が2017年末に実施した「人生の最終段階における医療に関する意識調査」では、この問いに対し、回答者の69.2%が「自宅」と回答し、大半の人が「在宅死」を望んでいた(グラフ1)。

同調査で、末期がんを想定して「自宅」を選択した理由は、「住み慣れた場所で最期を迎えたいから」(71.9%)、「最期まで自分らしく好きなように過ごしたいから」(62.5%)、「家族等との時間を多くしたいから」(50.7%)が多かった。
ちなみに、「在宅死」とは、住み慣れた自宅や終の棲家と決めた高齢者用住宅などで看取られること、「病院死」とは、医療機関に入院したまま亡くなることだ。主にがんの患者が、痛みやつらさなどを和らげるために入院する緩和ケア病棟(ホスピス)で亡くなった場合も病院死に含まれる。
「在宅死のメリットは、人生の最終段階の時間を、自分の好きなものや家族、ペットなどに囲まれて、やりたいことをやりながら過ごせることです。病院では病人、患者さんとして扱われますが、自宅では、たとえ体が動かなくても、おばあちゃん、おじいちゃん、お母さん、お父さん、妻や夫など家族の中での役割や、友人、地域や社会とのつながりがあります。体が弱っても好きなものを口から食べて穏やかに最期を迎えることもできます」と、医療法人社団悠翔会理事長・診療部長の佐々木淳氏は指摘する。首都圏を中心に21カ所の在宅療養支援診療所を運営している在宅医療のエキスパートで、『終末期医療の専門家22人に聞いてわかった 痛くない、後悔しない最期 在宅死のすすめ方 完全版』(世界文化社)にも登場している。

病院は治療を受けるところであるのに対し、自宅は生活の場だ。病院では救命処置を最大限施された結果、たくさんの管につながれたまま死を待つだけという状況になる場合もある。自宅では食事や消灯の時間も決まっていない。がんの転移で、病院では強い痛みを訴えていた人が、住み慣れた我が家へ帰ったら痛みが和らぎ、痛み止めの量を減らすということも、佐々木氏はしばしば遭遇するという。自宅での過ごし方は自由なので、体力が落ちていても残された時間に旅行を楽しんだり、禁煙や禁酒をしていた人でも喫煙、飲酒をたしなんだりすることもできる。
一方、病院の最大のメリットは、いつでも近くに医療者がいることだ。「自宅では、訪問看護師や訪問診療医にすぐ来てもらいたいと思って連絡しても、少なくとも20~30分はかかります。本人や家族が、すぐそばに医療者がいないと不安でたまらないという場合には、病院や緩和ケア病棟で最期まで過ごしたほうがよいかもしれません」と佐々木氏。