“幻のがん”と言われる「超早期の膵臓がん」を見つける切り札とは?
第3回 膵臓にがんが潜んでいる「証拠」をCTやMRIで見つける方法
田村知子=ライター
9割以上の患者が診断から5年以内に命を落としてしまう「膵臓がん(膵がん)」。だが近年、これまで見つけることがほぼ不可能とされてきた「ステージ0期」での診断が可能になってきている。ステージ0期で発見し手術をした場合の5年生存率は約90%にもなるという。特集第3回では、膵臓がんをステージ0期で見つけるための検査方法について、膵臓がんの早期診断法の確立に尽力している東京女子医科大学消化器内科准教授の菊山正隆氏に詳しく聞いていく。
『膵臓がん早期発見への挑戦』 特集の内容
- 第1回5年生存率9%、沈黙の臓器を襲う「膵臓がん」はなぜ怖いのか
- 第2回怖い「膵臓がん」 早期発見のために知っておきたい4つの危険因子
- 第3回“幻のがん”と言われる「超早期の膵臓がん」を見つける切り札とは?←今回
ステージ0期の膵臓がんはCTやMRIでは見つからない
近年はがんの早期発見が進み、治療も進歩したことから、がんと診断されて治療を受けた人が5年後に生存している割合(5年相対生存率、以下5年生存率)は、がん全体で64%まで向上している。しかし、膵臓がんの5年生存率はわずか8.5%しかなく、依然として低いままだ(*1)。
膵臓がんの5年生存率がこれほど低い理由には、第一に早期発見が非常に難しいことが挙げられる。膵臓がんでは「がんが膵臓の中にとどまり、大きさが2cm以下、かつリンパ節への転移が見られない」場合に「ステージⅠ期」と診断される。ステージⅠ期なら、他の多くのがんでは早期がんと考えるのが一般的だ。しかし、膵臓がんの早期診断法の確立に尽力している東京女子医科大学消化器内科准教授の菊山正隆氏は「膵臓がんの場合、残念ながらステージⅠ期でも早期がんとは言えません」と話す。
なぜなら、膵臓がんはステージⅠ期の段階で、既に目に見えない遠隔転移(他の臓器への転移)を起こしているケースが少なくないからだ(詳しくは第1回参照)。「だからこそ、私はがん細胞が膵管の粘膜(上皮)にとどまっている状態、つまり『ステージ0期』で診断をすることが重要だと考えています。しかし、従来の検査法でステージ0期の膵臓がんを見つけることは現実的には難しいため、ステージ0期の膵臓がんは“幻のがん”と呼ばれてきました」(菊山氏)
膵臓がんの診断にはほかのがんと同様に、CT(コンピューター断層撮影装置)やMRI(磁気共鳴画像装置)などの画像検査が用いられる。ところが、画像上でがんが確認できるのは、CTで2cmから、MRIでも1cmからだという。
近年、大学病院やがん診療連携拠点病院などでは、CTやMRIよりも小さながんを確認できる超音波内視鏡(EUS)による検査が普及し始めている。「超音波内視鏡では、CTやMRIでは確認できない1cm以下の膵臓がんを見つけられるようになりました。ただ、それでも検出できるがんは4~5mm程度。ステージⅠ期で外科治療(手術)の対象にはなるものの、膵管の粘膜から浸潤して結節(塊)になっていることが多く、それはいわば進行がんの状態です。ステージ0期の膵臓がんは、画像上で見つけることはほぼ不可能なのです」(菊山氏)
そんな現状を打破するべく、菊山氏をはじめとする膵臓の専門医らによる研究グループが取り組んでいるのが、画像検査では映らないステージ0期のがんの存在を明らかにして、早期診断につなげる新たな検査方法だ。
今回は、従来の検査も含めて、膵臓がんの早期発見のために知っておきたい検査について詳しく解説していく。その前に、特に注意したい膵臓がんの危険因子をおさらいしておこう(詳しくは第2回参照)。

- 親・兄弟姉妹・子どもをはじめ、血縁のある近親者に膵臓がんの患者がいる
- 近親者に大腸がん、乳がん、卵巣がんの患者がいる
- 本人に大腸がん、乳がん、卵巣がんの既往がある
- 超音波(エコー)やCT、MRIなどの画像検査で、膵臓の中や周囲に液体の入った袋が出現する「膵のう胞」や、膵管が太くなる「膵管拡張」を指摘されている
- 慢性膵炎がある
- 40歳以降で急性膵炎を経験した
- 家系に膵炎患者が多い(遺伝性膵炎)
- 50歳以降で急に糖尿病を発症した、あるいは治療中の糖尿病が急激に悪化した
こうした膵臓がんの危険因子がある人、特に何らかの機会に腹部超音波(エコー)検査などで膵管拡張や膵のう胞(膵臓の中や周囲に発生する、液体の入った袋)を指摘された人は、膵臓がんを念頭に置いた検査を受けることが勧められる(注:画像上の異常や症状、糖尿病や膵炎などの既存疾患がない場合は、保険診療ではなく自由診療となることもある)。