キング・オブ・エクササイズで筋肉を効率よく鍛える! 姿勢も改善
第3回 これだけでOK。続ければ姿勢がしゃきっと若返る
柳本操=ライター
忙しい日々、あえて体を動かす時間を確保するのは意外と難しいものだ。しかし、この特集で触れてきたように、姿勢を支える筋肉は加齢と日頃の姿勢の悪さを放置することによって加速度的に衰えていく。「運動習慣がない人や、ある程度年をとった人でも安全に実践でき、かつ効果的に姿勢を支える筋肉を鍛えられるように開発したトレーニング法が“スロトレ”です」と、筋肉と全身の関係を長年研究する東京大学名誉教授の石井直方氏は言う。今回はスロトレの中でも極めつきに効果が高い「スロースクワット」のやり方、効果を高めるポイント、日常姿勢の注意点などを聞いていく。
『筋肉博士直伝!「姿勢改善筋トレ」』 特集の内容
- 第1回筋肉博士に聞く!「姿勢改善筋トレ」で若見え、メタボ改善、便秘解消
- 第2回重要な筋肉ほど加齢で減る! 「悪い姿勢」も固定化、スロトレで鍛え直す
- 第3回キング・オブ・エクササイズで筋肉を効率よく鍛える! 姿勢も改善←今回
負荷は軽いのに効率的に筋肉を増やせる「スロトレ」誕生の経緯
50代を過ぎると一気に崩れ始める日常の姿勢。その背景には、加齢とともに進む、姿勢の維持に重要な筋肉群の衰えがあることを第2回ではお伝えした。
姿勢を支えるために活躍するのは、太ももの前側、お腹、背中、お尻にあり、重力に対抗してバランス良く体を支える「抗重力筋」。しかし、長時間のパソコン作業で猫背がクセになってしまったり、骨盤の背中側をイスにもたせかけた座り姿勢を長く続けることで、体は「姿勢を支える筋肉は必要ないのだな」と判断し、その筋肉を切り捨てていく。その結果、骨盤が後傾するなど姿勢は気づかないうちにどんどん悪化し、老け込んだ見た目になるばかりか、腰痛、肩こりなどさまざまな不調のもととなっていく――。

また、筋肉は、つまずきそうになったときにぐっと踏みとどまるなど素早い身のこなしに関わる「速筋線維」と、持続的に姿勢を保持したり、歩くときなどに働く「遅筋線維」から構成されているが、加齢の影響によってまず速筋線維が減り、少し遅れて遅筋線維が減っていくという。
速筋線維の減少によって素早い動きが苦手になると、日常の動作がおっくうになってくる。そして、不活発な生活により姿勢を保持するのに重要な遅筋線維も輪をかけて減少していく。この状態を放置すると、体は「サルコペニア(加齢により筋肉が減少し筋力が低下した状態)」、「ロコモ(筋肉や関節、骨などの運動器が衰える状態)」「フレイル(心身の状態が身体的、精神心理的、社会的に大きく低下する虚弱状態)」といった、本格的な老化状態に突入していってしまう。
そうならないために私たちがすぐに取りかかるべきは、なまけた筋肉をトレーニングし、筋肉の本来の働きを「再学習させる」ことだ。
「ウォーキングなどの有酸素運動はもちろん有効ですが、それだけでは筋肉を確実に“増やす”効果は望めません。しかし、運動習慣のない人にとって、ハードな筋トレは体への負担感が大きい上、お腹に力をぐっと入れて息を止めるときに血圧が上昇したり、ひざや腰痛などの故障の原因になるといったリスクもあります。そこで、最小限の負担で、速筋線維と遅筋線維の両方を効果的に鍛えられるトレーニングとして開発したのが“スロトレ”です」と、東京大学名誉教授の石井直方氏は言う。
スロトレはどんなトレーニング法で、具体的にはどんなふうにやればいいのだろうか。詳しく聞いていこう。