細胞の若返り機能「オートファジー」は60代以降、急速に衰える
第2回 見えてきたオートファジーと老化、病気の関係
柳本操=ライター
私たちの体の中に約37兆個ある細胞。そのほぼすべてで日々働いている“細胞の若返り機能”「オートファジー」は、ヒトの場合、60歳頃から活性が低下し、老化や、加齢に伴い増える病気とも密接に関わることがわかってきた。オートファジーの研究を行う大阪大学栄誉教授の吉森保氏は、オートファジーの働きにブレーキをかけるタンパク質「ルビコン」を発見。このルビコンを除去することで老化やさまざまな病気の予防が可能かもしれないと話す。第2回は、世界的にもホットな研究分野であるオートファジーと老化、病気との関わりについて聞いていこう。
『老化抑制のカギ「オートファジー」』 特集の内容
- 第1回老化抑制のカギを握る「オートファジー」 最新研究で見えてきたその驚異の機能
- 第2回細胞の若返り機能「オートファジー」は60代以降、急速に衰える←今回
- 第3回揚げ物は食べすぎ注意! 細胞の若返り担う「オートファジー」維持の5つの対策
オートファジーは60代以降にその働きが低下
老化制御に関する研究が世界中で加速している。医学的に老化を捉えるとき、欠かせないキーワードが「オートファジー」だ。
オートファジーとは、私たちの体の全身の細胞の内側で少しずつ行われている、回収、分解、リサイクルのシステムで、ざっくり言えば「細胞が自力で自分を新品にする機能」のこと。毎日、車のどこかの部品を交換しているとずっと新車状態が保たれることを想像するとわかりやすいだろう(詳細は第1回をご覧ください)。
「細胞は生命の基本単位であり、私たちが健康であるためには、細胞が健康であることが大事」であることは第1回でもお伝えした。ならば、オートファジーが行われている限り私たちは健康でいられるはず、と思う人も多いだろう。ところが、「オートファジーは60代以降、急速にその働きが低下すると私は考えています。各種の動物で加齢による働きの低下が観察され、ヒトの免疫細胞などでも同様の低下が確認されています」と、オートファジーの研究を行う大阪大学栄誉教授の吉森保氏は言う。
人間の場合、何歳でオートファジーの働きが低下するかは正確にはわかっていないが、動物の場合、生殖年齢を過ぎるとオートファジーがガクンと低下し、その年齢をヒトに換算すると60歳ぐらいなのだという。
また、免疫抗体を作る力の低下や、がん、アルツハイマー病、パーキンソン病など、オートファジーと関連する病気になる確率が、いずれも60代以降に高くなることにも、オートファジーの低下が関わると考えられている。

では、なぜオートファジーの働きは下がるのか。もし下がらないようにしたら、一体どうなるのだろうか。誰もが気になるところだろう。