老化抑制のカギを握る「オートファジー」 最新研究で見えてきたその驚異の機能
第1回 老化抑制のためには「細胞ケア」が重要
柳本 操=ライター
「老化は止められない」「年をとると病気になりやすくなるのは仕方ない」と思っている人は多いだろうが、近い将来、「老化をあきらめなくてよい」時代が来るかもしれない。現在、老化抑制の研究が世界中で進められているが、その中でもカギとなる要素として注目されているのが「オートファジー」だ。これは、細胞が自分の力で自分を新品にする機能のこと。研究をリードする大阪大学栄誉教授の吉森保氏は、「オートファジーを活用した老化抑制は、すでに科学の射程圏内にあると考えている」と話す。私たちの未来を変えるかもしれないオートファジーに関する本特集、第1回は、オートファジーとはどのような仕組みで、老化とどう関わるのかについて解説する。
『老化抑制のカギ「オートファジー」』 特集の内容
- 第1回老化抑制のカギを握る「オートファジー」 最新研究で見えてきたその驚異の機能←今回
- 第2回細胞の若返り機能「オートファジー」は60代以降、急速に衰える
- 第3回揚げ物は食べすぎ注意! 細胞の若返り担う「オートファジー」維持の5つの対策
老化と密接に関わるオートファジー 世界で研究が加速
見た目の老化が進んできた、疲れが長引く。このまま加齢とともに老化が進み、病気にかかりやすくなって衰えていくのは仕方ないことなのか――中高年になり、ふとそんな不安がよぎることはないだろうか。「科学の進歩で何とか老化を制御できないものか」とひそかに願っている人も少なくないかもしれない。
こうした老化に対する私たちの不安や問いに対し、細胞の仕組みなどについての研究を精力的に進めている大阪大学栄誉教授の吉森保氏は、次のように断言する。
「年齢とともに細胞や組織が“劣化する”という現象は確かにあります。しかし一方で、ヒトの細胞には『オートファジー』という非常に優れた仕組みがあります。現在、オートファジーの研究は世界中で加速しており、老化抑制はすでに科学の射程圏内にあります。老化をあきらめなくていい時代がすぐそこに来ている、と私は考えています」
オートファジーとは、ギリシャ語の「オート(自分」と「ファジー(食べる)」を組み合わせた言葉で、「自食作用」と訳される。「わかりやすく言えば、『細胞が自分の力で自分を新品にする機能』のこと。細胞内で、細胞が自分の中身を食べて壊して新しい細胞の材料を作り出すという、とても経済的なシステムです」と吉森氏は説明する。
オートファジーという言葉が生命科学の研究で初めて用いられたのは1963年。そして1993年に、大隅良典東京工業大学栄誉教授が酵母からオートファジーに必要な遺伝子を発見し、その功績によって2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。大隅栄誉教授とともに早くからオートファジーの研究に携わってきた吉森氏は、動物やヒトを対象に広げて研究を進め、重要な発見を積み重ねてきた。そうした研究の積み重ねにより、今やオートファジーは世界的にもホットな研究分野の一つとなっており、年間論文数はこの十数年うなぎ登りの状態といえる(グラフ)。

「私たちの体は多くの細胞の集合体であり、どんな病気も、細胞に何らかの不具合が生じることで起こります。そして、その細胞の恒常性の維持を担うオートファジーは、がん、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患、心不全、感染症など、さまざまな病気を抑制し、老化や寿命にも深く関わることがわかってきました」(吉森氏)
オートファジーの仕組みについては追って詳しく解説するが、重要なポイントは、オートファジーは人間の体に約37兆個ある細胞のほぼすべてで起こっている生命現象である、ということだ。
「これまでのアンチエイジングの限界は、紫外線や糖化、活性酸素など、老化を促進する個々の要因に対する対症療法的なものであったこと、そして、その多くは細胞に何らかの成分を“補う”ものだったということです。しかし、細胞に栄養を与えたとしても、その細胞自体が弱って機能が低下した状態では期待する効果はなかなか得られません」(吉森氏)。それに対して、オートファジーは、皮膚、臓器、脳など全身のすみずみの細胞を日々メンテナンスする立役者であり、オートファジーの機能が滞りなく維持され、細胞の健康が守られれば、老化をスローダウンすることにつながる、と考えられる。
そこで本特集では、オートファジーとはどのような現象で、気になる老化や病気に対してどのような働きを持つのか、さらに体内でオートファジーを活性化していくにはどんなことを心がけたらよいのかを吉森氏に聞いていく。