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もっと教えて!「発達障害のリアル」

発達障害は病気ではなく「脳の個性」 治すべきものではない

昭和大学医学部精神医学講座主任教授・岩波明氏に聞く(前編)

 黒坂真由子=フリーランス編集者・ライター

岩波氏 私の外来には、「発達障害になってしまいまして……」といって来院される方がいるのですが、発達障害が大人になってから「発症する」ということはありません。最初にお話ししたように、これは「生まれつきの脳の特性」を原因としているので、うつ病のように人生の途中でかかったり、治ったりということはないのです。

ではなぜ、大人になってから診断を受ける方がいるのでしょうか?  

岩波氏 大人になってから発達障害の診断を受ける方には、大きく分けて2つのパターンがあります。1つは職場での不適応から自覚が生まれるケースです。学歴を含めた「その人に本来あると周囲が期待する能力」と比較して、仕事のパフォーマンスが非常に低い。そのために上司から頻繁に叱責を受ける。そんな職場での問題がきっかけとなって、ADHDあるいはASDを疑うということがあります。もう1つは、仕事が続かないケースです。長続きしなくて、いろいろな職を転々とする。その結果、引きこもりになることも見られます。そういった方のベースにADHDやASDがあることがあります。

実は「高学歴」が多い、発達障害の人たち

ということは、その方たちは、高校や大学までは大きな問題なく過ごせていたということですか?

岩波氏 子ども時代に顕著な症状がある方は、その時期に治療に入っているものです。ですから、大人になってから我々の外来に来る方の9割以上は、子ども時代に本格的な受診歴のない方です。学生時代までは、本人の努力もあると思いますが、なんとかやってこられた方たちですね。

 今外来に来られているADHDやASDの方々には、知的能力の高い方が多いのですよ。我々はWAIS−Ⅳ(*2)などの知能検査を使ってテストをするのですが、IQベースで見ても平均よりも高い方が多い。また、大部分の方が4年制大学を出ています。有名大学を卒業している方も多数います。そのため、「あんないい大学を出ているのに、なんでこんなことができないのか」と言われてしまうわけです。大学までは地頭でそれなりにやってこられたのが、仕事においてはそうもいかなくなってしまうのですね。

 そうなると、最初に戻って「仕事の管理化」「社会の管理化」の問題が、浮かび上がってきます。小規模な自営業のような受け皿が減っている中で、管理された職場や社会に対応できず、隠れていた「脳の個性」が、ネガティブな方向であらわになってしまう。それが「大人の発達障害」という新しい社会問題を生んでいるのです。

*2 WAIS-IV ウェクスラー式知能検査の成人版。言語テストと作業テストの双方を含み、知的能力や記憶・処理に関する能力を測る。

岩波先生のお話、次回も続きます。

岩波明(いわなみ あきら)氏
昭和大学医学部精神医学講座主任教授(医学博士)
岩波明(いわなみ あきら)氏 1959年、神奈川県生まれ。東京大学医学部卒業後、都立松沢病院などで臨床経験を積む。東京大学医学部精神医学教室助教授、埼玉医科大学准教授などを経て、2012年より現職。2015年より昭和大学附属烏山病院長を兼任、ADHD専門外来を担当。精神疾患の認知機能障害、発達障害の臨床研究などを主な研究分野としている。特に大人の発達障害に詳しい
この記事は、日経ビジネス(2021年10月1日掲載)からの転載です。情報は掲載時点のものです。

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