「睡眠は90分単位」は誤解、「浅い睡眠」も大事!…知っておきたい8つの新常識
第1回 コロナ禍の今こそ見直したい、「良い睡眠」を手に入れる秘訣
伊藤和弘=ライター
先進国の中でもとりわけ睡眠時間が短い日本人。現役世代は睡眠不足によってパフォーマンスの低下にさらされ、リタイア世代では不眠や中途覚醒の悩みが増えてくる。かつてに比べると睡眠の重要性は多くの人に認識されるようになったが、一方で「睡眠は長さよりも深さが大事」「睡眠時間は90分単位がいい」などの俗説もまかり通っている。そこで本特集では、睡眠に悩むビジネスパーソンを数多く診察している青山・表参道睡眠ストレスクリニック院長の中村真樹氏に、エビデンスに基づいた“睡眠の新常識”と、良い睡眠を得るための秘訣を解説してもらう。
『ぐっすり眠るための8つの新常識』 特集の内容
- 第1回「睡眠は90分単位」は誤解、「浅い睡眠」も大事!…知っておきたい8つの新常識←今回
- 第2回睡眠時間が「6時間」では足りないこれだけの理由
- 第3回寝つきの悪さや中途覚醒がつらい! 快眠のために取り入れたい11の工夫

今、アップデートすべき睡眠の新常識とは?
新型コロナウイルスによってわれわれの生活が一変して、既に2年以上が過ぎた。外出時にはマスクを着用。他人との接触はできるだけ控えるようにし、忘年会や送別会などの飲み会は自粛。とりわけ影響が大きかったのは勤務スタイルだろう。リモートワークが推奨されて出社日数が減り、会議や出張もオンラインで行われることが多くなった。そんな中、「睡眠」についての悩みを抱える人も増えているという。
睡眠障害を専門とする、青山・表参道睡眠ストレスクリニック院長の中村真樹氏は、次のように話す。
「最初のうちは、未知のウイルスに対する不安や外出自粛のストレスから、『眠れない』と訴える方が多く見られました。その後、在宅勤務が広まると、生活リズムが不規則になって朝起きられなくなった人が増えました。通勤がなくなったための運動不足、オンとオフが曖昧になって労働時間が増えたストレスなども、睡眠に悪影響を与えています」
睡眠は、単に体の疲労を回復させるだけでなく、傷ついた細胞の修復(成長)、免疫力の回復、ストレスの解消、記憶の定着・整理など、実にさまざまな役割を担っている(図1)。良い睡眠が取れないと、こうした役割が十分に果たされず、日中の眠気や集中力の低下はもちろん、免疫力の低下、血圧の上昇、体重の増加、メンタル不調など、さまざまな弊害を引き起こすことが近年の研究で明らかになってきた。さらに、睡眠不足の蓄積は、将来の認知症発症リスクの上昇とも関係することが指摘されている。

人間は眠らなければ生きていくことはできない。良く眠ることは、食事・運動と並んで、日々の体調を整え、健康長寿を実現させるための基本中の基本と言っていいだろう。では、良い睡眠とはどのようなものなのだろうか。自分の睡眠が「良い睡眠」であるかどうかを知るにはどうすればいいのだろうか。
中村氏によると、「良い睡眠」には3つの条件がある。それは、「量、質、タイミング」だ。十分な睡眠時間(量)、安定した眠り(質)、そして適切な時間・規則正しさ(タイミング)。この3つがそろうことで初めて「良い睡眠」となり、私たちの健康を守ってくれるのだという。
だが、「十分な睡眠時間の長さはどれくらいか」ということや、「眠りの質の良し悪し」などについては、根強い誤解や、知られていない新常識も多い。例えば、「睡眠は長さよりも深さが大事」「睡眠時間は90分単位がベスト」「深夜1時は睡眠のゴールデンタイム」といったことを耳にしたことがあるかもしれない。だが中村氏によると、これらはすべて誤解だという。
そこで本特集では改めて、「睡眠の常識」を見直してみたい。以下の8つの「新常識」を紐解きながら、「良い眠りとは何か」「良い眠りを得るためのさまざまな工夫」について、中村氏に解説していただこう。