20代をピークに低下する「呼吸力」 効果的に鍛える簡単トレーニング
第2回 ポイントは、呼吸をするための特別な筋肉「肋間筋」
田村知子=ライター
私たちが生きていく上で欠かすことのできない「呼吸」。本特集の第1回では、その基本的な役割や仕組みについて解説するとともに、ストレス社会やコロナ禍で増えているという「浅くて速い悪い呼吸」が心身の不調を招く理由について見てきた。第2回では、「呼吸力」の維持・向上のカギを握る「呼吸筋」の特徴や、呼吸筋を効果的に強化し、深くてゆったりした「良い呼吸」を実現するための方法を紹介する。
『良い呼吸、悪い呼吸』 特集の内容
- 第1回「悪い呼吸」が心身の不調や老化を加速する!
- 第2回20代をピークに低下する「呼吸力」 効果的に鍛える簡単トレーニング←今回
- 第3回「なぜ口呼吸より鼻呼吸?」「深呼吸は体に悪い?」 呼吸の常識をアップデート
本特集の第1回で解説した通り、肺や呼吸の機能は20代をピークにじわじわと低下していく。肺や呼吸機能の低下によって「呼吸力」が衰えると、息を吐いたあとに肺の中に残る空気の量(機能的残気量)が増えやすくなり、肺に十分な空気を送り込みにくくなることで「浅くて速い呼吸」になるという。
長年にわたり呼吸神経生理学を研究する昭和大学名誉教授の本間生夫さんは、この浅くて速い呼吸は「悪い呼吸」だと指摘する。「浅くて速い呼吸をしていると、息苦しさや呼吸のしにくさを感じるようになり、さまざまな不調や病気を招きやすくなるだけでなく、心身の衰えを早めてしまうリスクがあります」
肺に十分な空気を送り込めなくなるとエネルギーを産生しにくくなることで代謝が落ち、各臓器の働きが低下したり、疲れやすくなったりする。さらに、不安や抑うつ、いら立ちといったネガティブな感情が高まりがちになることも分かっている。
では、浅くて速い「悪い呼吸」を、深くてゆったりした「良い呼吸」に改善するにはどうしたらよいのか。それには「呼吸筋を強化することが大切」だと、本間さんはアドバイスする。呼吸筋も全身の筋肉と同様に、加齢とともに衰える一方で、何歳からでも鍛えて強化することができるという。
「呼吸筋を強化してしなやかさを取り戻すことができれば、肺をより大きく膨らませたり縮めたりできるようになるため、自然と深くてゆったりした呼吸になります。すると、機能的残気量も減るので、『呼吸力』を若返らせることができます」(本間さん)
今回は、呼吸筋について詳しく解説するとともに、呼吸筋を強化する方法を紹介していこう。
肺の収縮をサポートする「呼吸筋」は20種類以上
呼吸筋とは、呼吸運動をサポートしている筋肉群の総称だ。私たちが呼吸をするときは、鼻や口から空気を吸い込み、肺に取り入れているが、肺自体には少なくとも膨らむ力はない。肺は肋骨や胸椎などに囲まれた胸郭の内部にあり、胸郭が動くことで呼吸運動が起きる。この胸郭を動かしているのが呼吸筋だ。「呼吸筋は、吸うときに使う『吸息筋』と、吐くときに使う『呼息筋』に分けられ、その種類は20以上あります」(本間さん)
主な呼吸筋

吸息筋:
息を「吸う」ときに働く呼吸筋。胸郭を広げて、肺を膨らませている。肺が膨らむことによって陰圧になり、肺へ空気が取り込まれる。
呼息筋:
息を「吐く」ときに働く呼吸筋。胸郭を縮めて、肺をしぼませている。肺がしぼむことによって陽圧になり、肺から空気が吐き出される。
例えば、胸郭と腹部の境にある横隔膜、肋骨を引き上げる外肋間筋、後頭部から鎖骨にかけての胸鎖乳突筋、首の斜角筋、肩甲骨辺りの僧帽筋は、息を吸うときに使う「吸息筋」。肋骨を引き下げる内肋間筋、腹部の腹直筋、腹横筋、外腹斜筋、内腹斜筋は、吐くときに使う「呼息筋」だ。「これらの呼吸筋の中でも、特に中心的な役割を果たしているのが『肋間筋』です」(本間さん)