「悪い呼吸」が心身の不調や老化を加速する!
第1回 心身をコントロールする「3つの呼吸」とは
田村知子=ライター
生きている限り、絶え間なく行われる「呼吸」。普段はあまり意識することはないが、私たちは1日に約2万回も呼吸をしている。それだけに、呼吸の質は良くも悪くも、心身の健康状態や老化のスピードにまで影響を及ぼすという。本特集では、知っているようで知られていない呼吸の役割や仕組み、「悪い呼吸」が心身の不調を招く理由、「良い呼吸」をするために効果的なトレーニング法のほか、呼吸にまつわるさまざまな疑問・誤解について解説していく。
『良い呼吸、悪い呼吸』 特集の内容
- 第1回「悪い呼吸」が心身の不調や老化を加速する!←今回
- 第2回20代をピークに低下する「呼吸力」 効果的に鍛える簡単トレーニング
- 第3回「なぜ口呼吸より鼻呼吸?」「深呼吸は体に悪い?」 呼吸の常識をアップデート
ストレス社会、長引くコロナ禍で「悪い呼吸」の人が増えている

息を吸い、息を吐く。普段は無意識のうちに行っている呼吸だが、1日の呼吸数は実に約2万回にもなるという。その呼吸が私たちの体に及ぼす影響について、長年にわたり呼吸神経生理学を研究する、昭和大学名誉教授の本間生夫さんはこう話す。
「私たちは絶えず呼吸をすることで、生命活動に必要なエネルギーを作り出しています。それ以外にも、呼吸は私たちの心身にとって重要な役割を担っています。それだけに、日ごろから呼吸のコンディションが悪い人は、さまざまな不調や病気を招きやすくなり、心身の衰えや老化のスピードを早めてしまうリスクがあります」
呼吸機能や呼吸をする力が衰えると、肺に十分な空気を送り込めなくなり、息苦しさを感じるようになる。また、体の隅々まで十分な酸素が行きわたらなくなり、エネルギーを生み出せなくなることで代謝が落ち、各臓器の働きが低下したり、疲れやすくなったりもする。さらに、呼吸機能が落ちると、不安や抑うつ、いら立ちといったネガティブな感情が高まることも分かっている。
肺や心臓に問題がなければ、普段の生活で「息苦しさ」や「呼吸のしにくさ」を感じることはあまりないかもしれない。しかし、肺や呼吸の機能は20代半ばをピークに、じわじわと低下していく。
「息苦しさ」や「呼吸のしにくさ」というと、呼吸器疾患の症状や運動をしたときなどの「ハァ、ハァ」「ゼェ、ゼェ」といった息切れや呼吸困難をイメージする人も多いだろう。だが、そうした明らかな息切れや呼吸困難を自覚することはなくても、息苦しさや呼吸のしにくさは思わぬかたちで忍び寄っていることがあると、本間さんは指摘する。それが、本間さんが「悪い呼吸」とする「浅くて速い呼吸」だ。
「浅くて速い呼吸」がなぜ、「悪い呼吸」になるのかについては、後ほど詳しく解説するが、本間さんは「ストレス社会に生きる現代人は、気づかぬうちに『浅くて速い呼吸』になりがちです。長引くコロナ禍ではさらにストレスや不安が高まり、『悪い呼吸』になっている人が増えていると感じます」と危惧している。
ここで、自分の呼吸機能が低下していないかどうかをセルフチェックしてみよう。
「悪い呼吸(=浅くて速い呼吸)」のリスクをチェック!
心肺機能に特に問題はないのに、階段や坂道を上ったり、急いで歩いたり走ったりすると息切れがする
大きく息を吸っても、肺に十分な空気が入っていない感じがする
デスクワークやパソコンに向かっている時間が長く、なんとなく息がつまるような感じがする
スマートフォンや携帯電話を操作するとき、首が前に傾く「スマホ首」、背中を丸めた「猫背」、肩が縮こまった「巻き肩」など、姿勢が悪くなっている
ちょっとしたことでも不安になりやすい性格だと思う
仕事などで緊張したりストレスを感じたりすると、ドキドキして呼吸が荒くなる

さて、いくつの項目にチェックが入っただろうか。該当する項目が多いほど、浅くて速い、悪い呼吸になっている可能性が高い。ただ、複数の項目にチェックが入った人でも、呼吸の仕組みを理解して、呼吸の力を向上させるトレーニングなどを行えば、呼吸のコンディションを改善することは可能だ。
「加齢による肺や呼吸機能の低下は避けられないものの、深くてゆったりした『良い呼吸』が身に付けば、心身の老化や衰えのスピードを緩やかにして、『息をする力』すなわち『生きる力』を維持・向上していくことができます」(本間さん)
今回はまず、呼吸の基本的な役割や仕組みのほか、「悪い呼吸」が心身の不調を招く理由について、本間さんに解説していただこう。