「朝食前に洗口剤」「歯磨き剤は成分で選ぶ」健康寿命を延ばす歯磨きの新常識
第3回 「口から歯周病菌を減らし、出血を悪化させない」が歯磨きのポイント
柳本操=ライター
健康寿命を縮めるさまざまな病気と密接に関わる歯周病。悪さをするのは、歯周病菌の塊であるプラークや歯石だ。プラークは排水溝のぬめり汚れと同じで、こすらなければ落とすことができない。「しかし、力を入れてゴシゴシこするなど間違った歯磨きをすると、出血し、全身に歯周病菌がめぐる『菌血症』を引き起こす原因になる」と、歯周病と加齢、病気の関係について研究する国立長寿医療研究センター口腔疾患研究部部長の松下健二さんは言う。今回は、歯周病の進行を止めるための正しい歯磨きノウハウを聞いていこう。洗口剤や歯磨き剤の選び方、ウイルス感染と口腔ケアの関係についても紹介する。
『歯磨きを変えれば、健康寿命が延びる!』 特集の内容
- 第1回歯磨き時の出血は「体中に菌が回っている」危険なサイン
- 第2回歯周病菌は口から全身へ 認知症・糖尿病・動脈硬化を悪化させる
- 第3回「朝食前に洗口剤」「歯磨き剤は成分で選ぶ」健康寿命を延ばす歯磨きの新常識←今回
- 第4回電動歯ブラシは有効? 洗口剤は善玉菌も減らす? 歯磨きの疑問を一挙解消!
せっかく磨いても逆効果? 歯周病を予防できない歯磨き法とは
歯周病とは、歯周病菌(歯周病に関連すると考えられている細菌の総称)によって歯肉に炎症が起きた状態だ。歯肉の歯周ポケット(歯と歯肉の間の溝が深くなった状態のこと)で起こった炎症は、血管を介して全身に炎症を引き起こし、認知症や糖尿病、動脈硬化や心筋梗塞など、健康寿命を縮めるさまざまな病気のリスクにもつながる可能性があることを前回はお伝えした。
「歯周病は自覚症状がないままに進行していきます。真面目に磨いている、という自負がある人でも、歯周ポケットのプラークまでは取り除けていないことが多い。しかし、歯磨きの仕方を少し変えて、日々のプラークをこまめに除去するセルフケアを行うことで歯周病の進行は効果的に食い止められます」と国立長寿医療研究センター口腔疾患研究部部長の松下健二さんは言う。
プラークは、バイオフィルムという膜で覆われており、ただのぶくぶくうがいなどでは落とすことができない性質を持っている。「キッチンの排水溝のぬめりもバイオフィルムの一種。水や洗剤を流すだけでは落ちず、ブラシでこすることで初めて取り除くことができます。ただ、プラークは歯周ポケットなど、歯ブラシが届きにくいところにあるので、丁寧な歯磨きが不可欠です」(松下さん)
私たちは、これまでなんとなく習慣にしてきた歯磨きを、歯周病予防のための最新バージョンにアップデートする必要があるようだ。
第1回でもお伝えしたが、以下の人は歯周病がじわじわと進行している可能性が高い。早めに歯科を受診するとともに、今日から歯磨きの方法を見直そう。
歯磨き時に出血がある
歯がぐらぐらする
口臭が気になる
歯肉がむずがゆい、痛い、赤く腫れている
硬いものが噛みにくくなってきた
歯が長くなったような気がする
前歯が出っ歯になった。歯と歯の間に隙間ができた。食べ物が挟まる
では、私たちの日頃の歯磨きの問題点は何だろう。まずは、下記のようなことをやっていないか、自身の歯磨きを振り返ってみよう。
大きめの歯ブラシでゴシゴシ力を入れて磨く
- ヘッドが大きい歯ブラシでは小回りがきかず、プラークがたまりやすい細部まで磨くことができない。ゴシゴシと力を入れすぎると歯肉を傷つけ、炎症の悪化や出血を招き、菌血症(血管の中に細菌が存在する状態、詳しくは第1回参照)にもつながる。
研磨剤入りの歯磨き剤で毎日磨く
- チューブ入りの歯磨き剤(デンタルペースト)に通常入っている研磨剤は歯の黄ばみや着色汚れをとるのには有効だが、連日のように使うと、歯肉や歯の表面を傷つける場合がある。
歯ブラシで舌苔をこする
- プラークは舌の表面にも舌苔(ぜったい)として存在するが、歯ブラシでゴシゴシこすると、舌の表面を傷つけて菌血症を助長する。また、舌の表面が荒れるとさらに舌苔が付着しやすくなる。
歯の間のプラークを爪楊枝で取っている
- 爪楊枝は不要な力を加えることによって歯を押し広げたり、歯肉をつつく刺激で傷つけ、炎症を悪化させることがある。