歯周病菌は口から全身へ 認知症・糖尿病・動脈硬化を悪化させる
第2回 全身の炎症を促進する歯周病、しっかり治療すれば糖尿病も改善
柳本操=ライター
歯肉や、歯を支える歯槽骨が慢性的な炎症を起こし、最終的には歯が抜け落ちてしまう口の中の感染症、「歯周病」。近年、歯周病が認知症、糖尿病、動脈硬化や脳卒中などの全身の病気とも密接に関わることがわかってきた。いつまでも健康で長生きしたい、というときに決して見過ごしてはならない歯。その健康を改めて見つめ直す本特集の第2回は、国立長寿医療研究センター口腔疾患研究部部長の松下健二さんに、歯周病と認知症の最新研究を中心に、歯周病と全身の病気の関係について話を聞く。
『歯磨きを変えれば、健康寿命が延びる!』 特集の内容
- 第1回歯磨き時の出血は「体中に菌が回っている」危険なサイン
- 第2回歯周病菌は口から全身へ 認知症・糖尿病・動脈硬化を悪化させる←今回
- 第3回「朝食前に洗口剤」「歯磨き剤は成分で選ぶ」健康寿命を延ばす歯磨きの新常識
- 第4回電動歯ブラシは有効? 洗口剤は善玉菌も減らす? 歯磨きの疑問を一挙解消!

歯周病はさまざまな病気のリスクを高める可能性
歯肉に腫れを起こし、歯の根を支える顎の骨(歯槽骨:しそうこつ)を溶かしていく歯周病は、歯を失う大きな原因になるだけでなく、出血部位から体内にP.g.菌(ポルフィロモナス・ジンジバリス菌)などの歯周病菌(*1)が入ると、全身のあちこちの臓器で炎症を起こす場合があることを特集の第1回ではお伝えした。
「歯周病は、歯肉や歯槽骨に深刻な炎症が起こってもほとんど痛みを伴わないため、“沈黙の疾患”と言われています。1990年以降、世界中で研究が進み、この歯周病がさまざまな全身疾患に関わっている可能性が明らかになってきました」と国立長寿医療研究センター口腔疾患研究部部長の松下健二さんは言う。

これらの疾患は、少なくとも動物実験においては、歯周病が発症・増悪要因となることが確認されている。一方、ヒトにおける因果関係については研究途上のものが多いが、いくつかの病気については、ヒトにおいても歯周病が増悪因子である可能性は高いと考えられている。
その一つが、認知機能が低下して日常生活に支障が出る「認知症」だ。いろいろなタイプがある認知症の中でも、多くを占めるアルツハイマー病(アルツハイマー型認知症)と歯周病の関係が注目されている。
そして、現時点でヒトにおける歯周病との因果関係が明確になっているのは、「糖尿病」だ。第2回では、上図で紹介した疾患の中から、主に認知症、糖尿病、そして脳卒中、心筋梗塞などの動脈硬化性疾患への影響について、最新のエビデンスを交えて解説しよう。いずれも健康寿命に大きく関与するキーとなる疾患だ。