高血圧があれば既に「心不全」は始まっている
第1回 成人の2人に1人が該当する「隠れ心不全」の怖さ
田村知子=ライター
超高齢社会を迎えたわが国で、年々増え続けている「心不全」。その予後の悪さはがんにも匹敵すると言われている。にもかかわらず、心不全の怖さはがんほど一般に浸透しておらず、早期発見・治療につなげられていない現状がある。実は、日本人の成人の2人に1人が心不全の初期段階に該当する。本特集では、心不全の知られざる実態と早期発見のポイント、今日から実践できる予防策などを、分かりやすく解説していく。
『心臓を守る―忍び寄る「隠れ心不全」』 特集の内容
- 第1回高血圧があれば既に「心不全」は始まっている←今回
- 第2回これって心臓の異常? 気になる「息切れ・むくみ・だるさ」の正体
- 第3回心臓を守るには、塩分を減らし、いびきをなくし、ふくらはぎを鍛える!
成人の2人に1人は、「心不全」の入り口にいる!
「心不全」と聞くと、読者の皆さんはどんなイメージを抱くだろうか。ある日突然「うっ」と心臓に激痛が走り、救急搬送されるような致命的な病気で、自分とは無縁のもの、あるいは、予測不能で予防できないもの、というイメージを持つ人も多いかもしれない。
しかし、心不全の多くは、ある日突然起こるものでもなければ、避けられないもの、予測不能なものでもない。心不全は、「心臓の機能が徐々に落ち、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなっていき生命を縮めていく病気」と定義されている。症状が出る前に予防することは可能で、症状が出てからであっても、発見が早ければ早いほどその後の経過を良くすることが可能な病気だ。
さらにもう1つ、あまり知られていない事実がある。読者の皆さんは、日本人の成人の2人に1人が、実は既に心不全の入り口に立っているということはご存じだろうか?
心不全の診療経験が豊富な、かわぐち心臓呼吸器病院副院長・循環器内科部長の佐藤直樹さんは、こう話す。「心不全には4つのステージがありますが、高血圧や糖尿病などの生活習慣病があれば、それだけで、最初の“ステージA”に該当します。日本の成人の2人に1人に高血圧があると言われていますから、2人に1人は既に心不全が始まっているのです。また、高血圧や糖尿病がない人でも、心不全を起こすことはあります。心不全は決して人ごとの病気ではなく、“明日は我が身”と言える病気だということを知っていただきたいと思います」

がんに危機感を持つ人は多いが、心臓を気にする人は驚くほど少ない
実際、心不全で入院する人は増加の一途をたどっている。日本循環器学会の「循環器疾患診療実態調査(JROAD)」によれば、心不全で入院した患者の数は、2013年度には約21 万人だったのに対し、2019年度は約29万人に増加(図1)。「ただし、この調査は循環器科・心臓血管外科のある医療機関に入院した患者を対象としたものです。一般の医療機関も含めればおそらくその2倍、年間約60万人が心不全で入院していると推測されます」(佐藤さん)

心不全の患者数は今後も増え続け、団塊の世代が75歳以上となる2025年から、団塊ジュニア世代が65歳以上となる2035年ごろにかけて、患者数や死亡者数の急増、病床不足、医療費の増大などで診療体制がひっ迫する「心不全パンデミック」に陥ることが危惧されている。そうなる前に、少しでも早く心不全を発見し、また、予防していかなければ――。現場の医療関係者の危機感は強い。
「何よりも問題なのは、高血圧などの身近な生活習慣病が、心不全の始まりであることが認識されていないことです。全身に血液を送るポンプの役割を果たす心臓は、1日に約10万回も収縮と拡張を繰り返し、生きている限り休みなく働き続けます。しかし、がんについては危機感を持っている人が多いのに、心臓の衰え、心不全への危機感を持っている人は驚くほど少ないのです」(佐藤さん)
心不全で命を落とすことを避けるためには、まずはこの病気を正しく理解することが大切だ。成人の2人に1人が入り口に立っている「心不全」とはどのような病気なのか、どうすれば早期に発見でき、どうすれば予防できるのか。さらに詳しく佐藤さんに聞いていこう。