運動で免疫力アップ! 「ハードか適度か」が大きな分かれ道
第1回 1日20分、軽く息が上がる程度の身体活動で免疫機能を高められる
柳本操=ライター
空気がひんやりする秋冬は、外で体を動かすのが心地いい季節。その一方で、この時期は風邪やインフルエンザなどの感染症の流行時期でもある。新型コロナウイルスにも注意を払わなければならない中、免疫機能はなるべく高く維持したいもの。ハイパフォーマンススポーツセンター国立スポーツ科学センタースポーツ研究部先任研究員の清水和弘さんに、「運動と免疫」の関係について伺った。清水さんによると、免疫機能は適度な運動で高められる一方で、ハードな運動は逆効果になると話す。
『免疫力を上げる運動の鉄則』 特集の内容
- 第1回運動で免疫力アップ! 「ハードか適度か」が大きな分かれ道←今回
- 第2回筋トレやストレッチで免疫は高められる? 加齢と免疫の関係…研究者の答えは
免疫機能を高めるには、どんな運動をどのくらいすればいい?
今回は、運動が免疫機能にどのような影響を与えるのかを伺いたいと思います。清水先生はこれまで、アスリートの免疫や感染防御を主なテーマとして研究を進められてきました。
清水和弘さん(以下、敬称略) はい、私自身、柔道選手だったのですが、現役時代は風邪をひきやすくて悩んだこともあり、アスリートの体調管理や感染予防、免疫という研究分野に興味を持ちました。
アスリートが本番で高いパフォーマンスを発揮するためには日常の健康管理が重要ですね。今回は一連の研究で得られた知見から、一般の方の健康維持や免疫増強に役立つヒントを紹介したいと考えています。まず基本的なところから教えてください。一般的に「運動は免疫機能の増強に役立つ」と言われることが多いですが、実際にはどうなのでしょうか?
清水 そうですね。運動と免疫については世界中で研究が行われており、近年、「適度な運動は免疫機能を高める一方、強度や継続時間、頻度によっては、運動そのものが原因となって感染症を引き起こしやすくなる、つまりハードな運動は良くない」ということが分かってきました。
ハードな運動は良くない、と言ってもアスリートにとっては競技パフォーマンスをより高めるために予定された練習メニューをこなす必要があります。ですから、どのような負荷の運動が免疫機能を低下させるのかをアスリートそれぞれに知識として理解してもらう、という取り組みも行っています。
なるほど、運動、と一言で言っても、体が受ける負荷によって免疫への影響が変わってくるのですね。具体的に教えてください。
清水 まず、スポーツ科学の分野では、「過度な強度と長時間の運動は、免疫機能を低下させ、感染症の罹患リスクを高める」ことが1990年代から分かってきて、今では定説となっています。
実際に、高強度の運動(最大酸素摂取量〔*1〕75%の、おしゃべりはほとんどできず、続けているとハアハア息切れするくらいのハードな自転車運動1時間)をしてその前後で免疫指標となる唾液中のSIgA(分泌型免疫グロブリンA)の分泌量を測ったところ、SIgAが低下し、1日経過しても元の状態には回復しきらないことを確認しました(グラフ)。

高強度の運動だと、免疫指標がこんなに下がってしまうのですね。
清水 最大酸素摂取量75%で1時間、というのは相当しんどい負荷の運動なので、日頃から運動習慣がある人でも、ない人でも、免疫機能は低下します。例えば1時間以上のランニング(マラソンなど)でも同様のことが起こります。アスリートの場合、免疫機能の回復に要する時間は短くはなりますが、ハードな運動による低下は生じてしまいます。つまり、クタクタになるような運動をすると、その直後からしばらくは「感染リスクが高い」状態になるわけです。