健康や長寿を語るうえで、忘れてはならないのが「腸内細菌」です。どうしてこんなに注目を集めるようになったのでしょうか。本連載では、消化器内科医で、腸内細菌や抗加齢医学に詳しい京都府立医科大学大学院の内藤裕二教授に、腸内細菌について基礎から最新研究まで解説していただきます。
第1回となる今回は、内藤教授が研究に取り組むことになった経緯、そして腸内細菌の最新研究について紹介します。腸内細菌によって肥満が引き起こされる可能性が明らかになっているほか、腸内細菌を使った治療についての研究も進んでいます。
私たちの消化管には、広く微生物がすみ着いている。口にいるのは口腔細菌、胃には胃内細菌、腸にいるのが腸内細菌と呼ばれ、その多くは宿主であるヒトと共生関係を結んでいる。
なかでも大腸には約40兆個もの腸内細菌がすみ、その菌のバランスがどうやら肥満や糖尿病、うつ、認知症、長寿など、健康や寿命に関わることがわかってきた。そのため、近年では、あらゆる医療分野において腸内細菌の研究が進められるようになってきた。

この春、京都府立医科大学大学院医学研究科に新たに生体免疫栄養学講座を開設した内藤裕二教授は、腸内細菌がヒトに及ぼす影響について注目する一人。「これからの時代、いかに健康なまま長生きするかを考えるうえで、腸内細菌の研究が不可欠だと考えている」と話す。
消化器内科医になった30年ほど前は、腸内細菌研究に関わることなど予想もしていなかったという。
「そのころは、単に最新鋭の内視鏡で消化管の中をのぞいてみたいという思いと、当時増えつつあった胃がんの治療に取り組んでみたいという気持ちで、消化器内科を選択したにすぎませんでした」と振り返る。
当時、消化器内科では、感染で入ってくるようなサルモネラ菌や病原性大腸菌O-157といった強い毒性を持つ病原菌については研究が行われていたものの、「長く体内にすみ付き、ヒトと共生関係を築いている腸の常在菌が、健康を左右したり、命に関わる病気を引き起こすとは誰も考えてはいなかったと思います」。