筋肉の質を高めるには週2~3回の「ウォーキング+筋トレ」
第3回 週150分の中強度の運動で、筋肉にたまった脂肪を減らそう
梅方久仁子=ライター
加齢や運動不足によってひそかに進む、筋肉の「質」(機能)の低下。その原因となる、筋肉の中に“サシ”のようにたまった脂肪を減らし、できるだけ質の良い筋肉を維持していくには、適度な運動を行って筋肉に刺激を与えることが不可欠だ。ではどのような運動を心がければ、筋肉の質の低下を防ぐことができるのだろうか。
『今、必要なのは「質の良い筋肉」!』 特集の内容
- 第1回大事なのは「質の良い筋肉」! 質の低下示す危険なサインとは
- 第2回「筋肉の質の低下」なぜ起こる? 加齢と運動不足が招く負のスパイラル
- 第3回筋肉の質を高めるには週2~3回の「ウォーキング+筋トレ」←今回
加齢とともに筋肉の質(機能)が落ち、量が減って身体活動が低下してくると、やがて立ち上がる、歩くといった日常生活が不自由になり、寝たきりへと進んでいく。また、筋肉の質の衰えは、糖尿病など生活習慣病の引き金にもなる。年をとっても、できるだけ質の良い筋肉を維持していくには、適度な運動を行って筋肉に刺激を与えることが不可欠だ。
筋肉の質を維持する重要性に注目した本特集。筋肉の質が落ちるメカニズムを解説した第2回に続き、第3回となる今回は、同志社大学スポーツ健康科学部教授の石井好二郎さんへの取材をもとに、どのような運動を心がければ筋肉の質の低下を防ぐことができるのかについて探っていく。
強い刺激がないと、筋肉は「速筋」から減っていく
質の良い筋肉を維持するには、どのような運動をすればよいのだろうか。気ままに散歩するだけでよいのか、それともスクワットのような筋力トレーニングが必要だろうか。
必要な運動の種類や強度を理解するために、まず骨格筋(骨格を動かす筋肉)を構成する筋線維の分類を知っておこう。筋線維は、次の表のように遅筋(ST)と速筋(FT)に分けられる。「遅筋は持久力が要求される有酸素運動で使われ、速筋は瞬発力が要求される無酸素運動で使われる」というざっくりとした認識が、既に頭に入っている読者の方もいるだろう。速筋はさらに、持久能力もある程度併せ持つFTaと、瞬間的収縮力がメインのFTbに分けられる。
筋線維の種類
遅筋
ST(slow-twitch)…持久的能力に優れる。収縮速度は遅い
速筋
FT(fast-twitch)…大きな収縮力を生み出せる。持久的能力は低い
FTa…持久的能力も併せ持つ
FTb…持久的能力に乏しく、瞬間的収縮力に富む
ゆっくり歩くといった弱い運動をするときは、主に遅筋線維が使われる。そして、早歩きやジョギング、さらには重量挙げのように運動強度が増すにつれて、遅筋線維→FTa線維→FTb線維の順に動員されていく。
筋線維は使われないと萎縮し、細くなっていく。そのため、強い運動刺激が減ると、強い運動で使用するFTb線維がまず衰え、次にFTa線維…という順番に萎縮していく。高齢者は強い刺激の運動が減りがちなので、速筋線維が衰えていき、遅筋線維の割合が多くなりやすい。
速筋が適切に働かないと、立ち上がる、階段を上る、よろけたときに踏みとどまるといった瞬間的に力を発揮する動作が難しくなり、思わぬ転倒や転落の原因となってしまう。また、筋肉への糖の取り込みが減り、糖尿病になりやすくなる。
つまり、転倒や骨折を防いで強い足腰を保つためには、何歳になっても、速筋が鍛えられるように、ある程度の強度を持った運動を継続することが必要だ。
遅筋線維は寝たきりでいるとすぐ衰える
一方、遅筋線維は姿勢を保つときなどにも使われる。地球上では重力がかかるので、立っているだけ、座っているだけでも、遅筋が働いている。重力にあらがって力を発揮することから、遅筋は抗重力筋とも呼ばれている。
「速筋線維と同じように、遅筋線維も使わないとどんどん衰えてしまいます。宇宙飛行士は宇宙で無重力状態で過ごした後に、立っていられなくなることがあります。これは廃用性筋萎縮と言って、抗重力筋である遅筋線維に起こりやすいことが分かっています」(石井さん)。遅筋線維が衰えると、姿勢を保ったり制御したりできなくなり、立ち続ける、歩くといった持続的な活動が難しくなる。「例えば大きな手術をした後でも、今は翌日くらいから病院の廊下を歩かされます。傷が痛いからと寝たままでいると、数日で立てなくなってしまいます」と石井さんは言う。
筋肉の衰えを防ぎ、元気で自立した生活を送るには、速筋と遅筋の両方を鍛える必要があるというわけだ。