大事なのは「質の良い筋肉」! 質の低下示す危険なサインとは
第1回 年齢が上がるにつれて、筋肉の「質」はどんどん落ちてくる
梅方久仁子=ライター
丈夫な足腰を維持し、健康で長生きするためには、特に下半身の筋肉を落とさないことが重要だ。しかし、筋肉の量が保たれている人でも、ひそかに筋肉の「質」の低下が進み、それが将来の筋肉量減少や身体機能の低下につながるリスクがあることが、近年の研究で分かってきた。筋肉の「質」とはいったい何なのか。質が衰えるというのはどういうことか。そして、質を維持するにはどうすればいいのだろうか?
『今、必要なのは「質の良い筋肉」!』 特集の内容
- 第1回大事なのは「質の良い筋肉」! 質の低下示す危険なサインとは←今回
- 第2回「筋肉の質の低下」なぜ起こる? 加齢と運動不足が招く負のスパイラル
- 第3回筋肉の質を高めるには週2~3回の「ウォーキング+筋トレ」
筋肉で大事なのは「量」だけにあらず
年齢を重ねても、できるだけ長く元気でいたい。そんな願いをかなえるために重要なのが、丈夫な足腰を維持することだ。足腰が衰えると日常生活のさまざまな動作が難しくなり、思わぬ転倒などをきっかけに、寝たきりへと突き進む可能性がある。
では、足腰の機能を健全に保つためには、どうすればいいのだろうか。日経Goodayでは過去の特集で、加齢に伴い減っていく筋肉の量をできるだけ維持する方法や、食事の工夫や運動によって骨を強く保つ方法、日常動作を妨げる腰痛の改善法などを紹介してきた。これらに加えて、近年、専門家の間で注目が集まっているのが、筋肉の「質」の重要性だ。

運動不足が続いたり、体重が減ったりすると、筋肉の「量」が落ちることはよく知られている。では、筋肉の「量」ではなく筋肉の「質」とはいったい何なのだろうか。質が衰えるというのはどういうことか、そして、質を維持するにはどうすればいいのか――。
本特集では、同志社大学スポーツ健康科学部教授で、加齢に伴う筋肉の変化やロコモ(*1)対策などに詳しい石井好二郎さんへの取材を基に、「質の良い筋肉」の重要性や、質が落ちるしくみ、筋力維持のためのトレーニング方法などを紹介していく。
第1回となる今回は、筋肉の質とは何か、筋肉の量と質の関係は加齢とともにどう変化していくのか、といった点について解説していこう。記事の最後では、現在のあなたの筋肉の質をチェックする方法も紹介する。
年をとると、筋肉量は十分でも筋肉の質が低下する
歩く、立ち上がる、しゃがむ、物を持ち上げるといった日常動作を支えているのは、骨格筋と呼ばれる、全身を動かすときに使われる筋肉だ(*2)。
「骨格筋は、成人男性で体重の約40%、成人女性では約35%を占めていて、人体で最大の組織です。実は、筋肉はただの運動器官ではなく、血液中の糖を取り込んで代謝したり、ホルモンを産生するなどの働きも担っています。筋肉の働きが悪くなると糖尿病になりやすくなるなど、生活習慣病にも大きく関わっているんです」と石井さんは指摘する。「そのため、今は筋肉も臓器の1つと考えて扱うようになっています。筋肉は、人体最大の臓器と言えるでしょう」(石井さん)。
一般に、体重が重い人(肥満の人)ほど、筋肉量も多い。自分の体重を支えるためには、相応の筋肉が必要となるからだ。身長と体重のバランスから、「やせすぎ(低体重)」や「太りすぎ(肥満)」の判定をするためによく使われるのが、BMIという指標だ(*3)。日本肥満学会の基準では、BMI 18.5未満が「低体重(やせ)」、18.5以上25未満が「普通体重」、25以上が「肥満」と判定される(米国や世界保健機関〔WHO〕の基準では30以上が肥満)。
このBMIに基づいてフランスの高齢女性(平均年齢80歳)の骨格筋の量を調べた研究では、BMIが24未満、および24以上29以下のグループに比べて、29超のグループ、つまり肥満度が最も高いグループでは、骨格筋量が有意に多かった(図1)。だが、この研究では、もう1つ興味深い事実が判明している。

*2 筋肉には骨格筋のほかに、心臓を動かす「心筋」、消化管や血管を動かす「平滑筋」がある。自分の意志で動かすことができるのは骨格筋だけ。
*3 BMI:Body Mass Indexの略。体格指数。体重(kg)/身長(m)² で表す。