脊柱管狭窄症と椎間板ヘルニア 2大腰痛を和らげるオットセイ体操とねこ体操
第3回 2大腰痛は成り立ちも症状も違う! 異なる対策で乗り切る
田中美香=医療ジャーナリスト
老いも若きも、多くの人が悩む「腰痛」。その中でも特に患う人が多い「椎間板ヘルニア」と「脊柱管狭窄症」は、同じ腰痛でも異なる点が多い。椎間板ヘルニアは前かがみの姿勢を長く続けたり、長く座り続けることで痛みが出やすいのに対し、脊柱管狭窄症は前かがみで楽になり、座るよりも歩くことで痛みが強く出る。当然ながら、対策も分けて考えたほうがいい。今回はこの2大腰痛に悩む人にお勧めの体操について解説する。2つの疾患を併せ持つ人向けの体操法も紹介しよう。
『腰痛の新常識』 特集の内容
- 第1回腰痛は年のせい?筋肉不足のせい? 腰痛改善は「誤解の解消」から
- 第2回腰痛の撃退にはこれ! 仙腸関節をゆるめる「テニスボール体操」
- 第3回脊柱管狭窄症と椎間板ヘルニア 2大腰痛を和らげるオットセイ体操とねこ体操←今回
椎間板ヘルニアと脊柱管狭窄症は、病気の成り立ちも症状も異なる
男女ともに多くの人が悩む「腰痛」。加齢現象だから仕方ないと思う人もいるが、多くの腰痛患者に接してきた柔道整復師で、さかいクリニックグループ代表の酒井慎太郎さんは、経験上、骨盤の中にある「仙腸関節」の機能異常が根本的な原因であることが多いと言う。第2回では、その仙腸関節をゆるめる「テニスボール体操」や、腰への負担を最小限にする生活のポイントについて解説した。腰痛を持つ人に、あるいは腰痛を今後発症するかもしれない予備群の人にもぜひ試してほしい対策だ。
だが、一口に腰痛と言っても、ベースにある病気によって成り立ちも症状もさまざまだ。腰椎は下図のように椎骨が積み重なってできているが、2大腰痛と呼ばれる「腰椎椎間板ヘルニア」と「腰部脊柱管狭窄症」(以下、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症と略)では異なる点が多い。

椎間板ヘルニアは若い人に多く、背骨を構成する骨のパーツ(椎骨)の前方が圧迫されて起こる。椎骨同士をつなぐ椎間板の中身が、背骨の中にある神経の通り道(脊柱管)にはみ出し、神経を刺激して症状が出る。前にかがんだときに痛みやすいのが特徴だ。
それに対し、脊柱管狭窄症は高齢になるほど発症する人が増える。椎骨の後方の構造が崩れて脊柱管が狭くなり、中を通る神経が刺激されて痛む病気だ。椎間板ヘルニアと違い、前かがみになると楽になる。このように異なる点があるため、視点も変えて対策を考えることが必要だ。
椎間板ヘルニア
背骨を構成する椎骨の前方が圧迫される

前にかがむと痛む

前傾姿勢のために腰椎の前方に負担がかかると、椎間板の中身(髄核)がはみ出して神経を刺激する
脊柱管狭窄症
背骨を構成する椎骨の後方の構造が崩れる

後ろに反ると痛む

腰椎の後方に負担がかかると脊柱管が圧迫されて狭くなり、神経を刺激する
腰痛対策において心配なのは、「痛みがあるのに動かしていいのか」という点だろう。痛みが強いときは安静にせざるを得ないが、少し落ち着いてきたら体を動かしたほうがいい。
「腰が痛いからといってずっと安静にせず、なるべく早めに体を動かすのが現在の常識です」。酒井さんはこう話す。高齢者になると、骨に変形があることを理由に安静にする人もいるが、「骨や関節の変形がある人も、動くことはやめないでほしい」と酒井さんは警告する。
「変形は悪いものだと思われやすいのですが、誰にでも起こり得る加齢現象、皮膚で言えばシワのようなものだという考え方もあります。整形外科で変形があると言われた人も、医師に安静にするよう言われた場合以外は、あまり安静にし過ぎないようにしましょう。過度に安静にすると、筋肉が落ちるだけでは済みません。全身の関節が固まり、動きにくくなってしまいます」(酒井さん)
そこで今回は、椎間板ヘルニアと脊柱管狭窄症、それぞれの症状緩和に役立つ体操を紹介しよう。キーワードは2つの動物。オットセイと猫だ。