腰痛の撃退にはこれ! 仙腸関節をゆるめる「テニスボール体操」
第2回 背骨と土台のクッション機能を回復させる生活術とは
田中美香=医療ジャーナリスト
中高年が悩む体の不調の中で、1、2を争うほど多いのが「腰痛」だ。腰痛を改善するために筋トレやストレッチなどに取り組む人もいるが、それ以上に効果が期待できるのが、“体の免震構造”を担う「仙腸関節」にアプローチする対策だ。今回はその方法として、仙腸関節をゆるめる体操と、椎間板の負担を減らす日常生活のポイントを紹介しよう。
『腰痛の新常識』 特集の内容
- 第1回腰痛は年のせい?筋肉不足のせい? 腰痛改善は「誤解の解消」から
- 第2回腰痛の撃退にはこれ! 仙腸関節をゆるめる「テニスボール体操」←今回
- 第3回脊柱管狭窄症と椎間板ヘルニア 2大腰痛を和らげるオットセイ体操とねこ体操
腰痛の元凶は、仙骨と腸骨をつなぐ「仙腸関節」にあり
腰痛の多くは原因不明だから、医療機関にかかっても仕方ない――。そう考えて、腰痛を治す努力をあきらめてしまう人がいる。しかし実際は、多くの腰痛には原因疾患がある。また、「腰の病気は加齢のせい」と思っている人は多いが、原因はそれだけではない。「腰周辺に筋肉がついていないから」「体の柔軟性がないから」などの理由で腰痛が起こると思う人も多いが、実はそうとも限らない。もっともらしく出回っている腰痛に関する情報が、必ずしも正しいとは限らないのだ(前回参照)。
では、根本的な腰痛の原因は一体何なのか。
さかいクリニックグループ代表で柔道整復師の酒井慎太郎さんは、「腰痛の多くは、姿勢の崩れからくる、『仙腸関節(下図)』の機能異常から起こります。腰痛を改善するには、仙腸関節がきちんと機能するよう、ガチガチに固まった状態からゆるめることが必要です」と話す。
酒井さんは、プロ野球選手などのトップアスリートをはじめ多くの腰痛患者に接してきた柔道整復師。骨・関節、筋肉の不調に関するプロフェッショナルだ。多くの人々の腰の痛みに接する中で、仙腸関節をゆるめれば腰痛が改善しやすいことを経験してきたという。

しかし、仙腸関節という言葉を聞いて、「ああ、なるほど」と合点がいく人はほとんどいないだろう。膝関節や股関節などと違って耳慣れない名前だけに、“地味な関節”と思うかもしれない。仙腸関節とは、背骨の下部(骨盤の中央)にある仙骨と、その左右両側にある腸骨をつなぐ細長い関節のこと。背骨が体を支える「柱」であるとすると、骨盤はそれを支える「土台」、そして、酒井さんによると、土台と柱の間のクッション機能を担うのが仙腸関節だ。
高層の建物には、地震の衝撃を吸収・分散させるための「免震構造」が備わっているものがある。免震構造とは建物と基礎の間に積層ゴムなどを入れ、地震の揺れを建物がダイレクトに受けないように工夫した構造のことで、そのおかげで建物が倒れないということは皆さんも聞いたことはあるだろう。同様に、人間の体にも衝撃を和らげるクッション機能がある。その役割を背骨において主に果たし、腰や膝などにかかる負担を逃がすクッション機能を持つのが仙腸関節だ。
仙腸関節は靭帯によって仙骨・腸骨と連結されていて、2~3mmという微妙な範囲で動ける余裕、つまり“遊び”がある。背骨と骨盤ががっちりつながっていると衝撃で骨を痛めかねないが、わずかに動く余裕があることで、体を深く折り曲げたときなどに腰に集中する負担が吸収・分散されるのだ。
仙腸関節の機能異常は、前かがみの姿勢から発生する
だが、現代人はとかく前にかがみがちで、首が前に出た猫背の姿勢が癖になった人が多い。「この崩れた姿勢は仙腸関節に悪影響を及ぼし、腰痛につながっていく」と酒井さんは指摘する。
最初に起こるのが、背骨に沿った筋肉(脊柱起立筋)が収縮して起こる炎症、「筋・筋膜性腰痛」だ。前にかがむと、体が前に倒れないように抵抗するため、脊柱起立筋が収縮して後ろに引っ張ろうとする。こうして背筋が疲弊して炎症を起こす状態を筋・筋膜性腰痛という。軽度の腰痛は、これを取っかかりにして始まりやすい。
次の段階で起こるのが、仙腸関節の機能異常だ。前かがみの姿勢は、骨盤全体を後ろに傾け(下図)、仙腸関節をガチガチに硬くし、ロックされたように動かなくしてしまう。そうやって仙腸関節のクッション機能が損なわれると、体にかかる衝撃が腰にダイレクトに響いて腰痛を生じる大きな要因になる。さらに進むと、腰椎の前方に負担がかって起こる腰椎椎間板ヘルニアや、腰椎の後部までガタつくと腰椎分離症・すべり症、腰部脊柱管狭窄症なども引き起こす(各疾患の説明は第1回を参照ください)。

しかし、長年かけて出来上がった崩れた姿勢を正すのは、容易なことではない。ぜひ試していただきたいのは、仙腸関節を少しずつゆるめていく体操だ。