長生きする人が食べているものは? 百寿者の食卓の秘密を探る
第3回 大腸がんの少ない京丹後の高齢者 腸内には「酪酸菌」が多い
田村知子=ライター
100歳以上の「百寿者」の割合が全国平均の3倍に上る日本屈指の長寿のまち、京都・丹後地域。その長寿の秘訣を探るべく始まった疫学調査「京丹後長寿コホート研究」では、丹後地域で暮らす高齢者の特色が明らかになってきている。特集第3回では「食」に注目。丹後地域の長寿者の腸内細菌や食生活の特徴を解説していく。
『長寿のまち・京丹後の「健康長寿の秘訣」を探る』 特集の内容
- 第1回100歳以上が全国平均の3倍! 京丹後の長寿者はここがすごい
- 第2回長寿のまち・京丹後の高齢者は、よく動く!よく話す!よく眠る!
- 第3回長生きする人が食べているものは? 百寿者の食卓の秘密を探る←今回
大腸がんの罹患率が2分の1以下! そのカギは「酪酸菌」にあり?
「『京丹後長寿コホート研究』の一環として行った調査では、京丹後市は京都市に比べ、大腸がんの罹患率が2分の1以下であることが分かりました。それにはおそらく、腸内環境の違いが影響しているのではないかと考え、京丹後市と京都市に暮らす65歳以上の高齢者各51人の腸内細菌叢(腸内フローラ)を遺伝子解析して比較したところ、興味深い結果が得られました」
こう話すのは、京都府立医科大学大学院医学研究科生体免疫栄養学教授の内藤裕二さんだ。内藤さんによると、京丹後市の高齢者の腸には「ファーミキューテス(Firmicutes)門」と呼ばれるグループの細菌が多く、「バクテロイデス(Bacteroidetes)門」の細菌が少ないことが分かったという。「さらにファーミキューテス門の構成を詳しく見ていくと、上位4つはクロストリジウム菌という『酪酸産生菌(酪酸菌)』だったのです」(内藤さん)

酪酸産生菌は、いわゆる善玉菌の一種。酪酸産生菌が産生する「酪酸」は、大腸の上皮細胞のエネルギー源として利用され、腸内フローラのバランスを整えたり、免疫の過剰な反応を抑える制御性T細胞を増やしたりする働きが報告されている、近年話題の成分だ。
酪酸とは?
酪酸産生菌が作り出す短鎖脂肪酸の一種。
大腸のエネルギー源となり、大腸が正常に機能するための重要な役割を果たしているほか、腸内フローラのバランスを整え、免疫の過剰な反応(アレルギー反応や炎症)を抑える働きなどがある。
京丹後市の高齢者の腸内にはなぜ、酪酸産生菌が多いのだろうか。内藤さんは「その理由については解析を進めているところですが、丹後地域に受け継がれてきた、昔ながらの食生活が果たす役割が大きいと思っています」と話す。
京丹後市は、京都府北部の丹後半島に位置する海沿いの町。今では京都市内から車で2時間程度だが、かつては交通の便が悪く、コンビニエンスストアができたのもかなり遅かったという。
「そんな京丹後市で生まれ育った高齢者は、身近な海や山、田畑から食糧を調達する生活を続けてきました。魚や海藻類、豆やイモ、根菜、玄米などの全粒穀類が中心の食事になり、自然と食物繊維の摂取量が多くなります。そのことが、腸内環境を良くして、健康につながっているのではないかと考えられます」(内藤さん)
