間違いだらけの疲労解消法 自律神経をいたわる食事と運動の秘訣とは
第3回 栄養ドリンクやスタミナ食、お酒、運動は疲労回復に有効?
田村知子=ライター
まとわりつくようなしつこい疲労の「本当の原因」と、その解消法をご紹介してきた本特集。第3回は、食事や運動を中心に、疲労医学の研究で明らかにされた「疲れをためないセルフケア術」を紹介する。第2回で述べた通り、疲労の根本原因である「脳の疲れ」を回復するには、「質の良い睡眠」をとることが不可欠だ。それと同時に、自律神経をいたわり、疲れをためない生活を心がけることも大切になる。食事や運動などの生活習慣を見直して、疲れにくく、暑さにも負けない体づくりを実践しよう。
『あなたを悩ます「疲労」の解消法』 特集の内容
- 第1回しつこい疲労は自律神経からのSOS! 放置すれば老化にも
- 第2回脳をしっかり休ませ、疲労を回復させる睡眠のコツは?
- 第3回間違いだらけの疲労解消法 自律神経をいたわる食事と運動の秘訣とは←今回
誤った疲労対策は逆効果にも! 古い常識はアップデートを
「疲れがたまっている」「連日の暑さで夏バテ気味」と感じたとき、あなたはどんな対策をとっているだろうか。世の中には「疲労回復に効果的」とされるさまざまな疲労解消法が存在する。しかし、疲労医学の第一人者で、東京疲労・睡眠クリニック院長の梶本修身さんは「一般には『疲労回復効果がある』と思われているものの中には、実は根拠がないばかりか、かえって疲労の悪化につながるものもあるので注意が必要です」と指摘する。
例えば、「疲れがとれる」と誤解されがちなものには、以下のような疲労対策・解消法が挙げられる。おそらく誰もが1つくらいは試したことがあるのではないだろうか。
誤解だらけの疲労解消法
疲れたら栄養ドリンクを飲む
ウナギや焼肉でスタミナをつける
アルコールでストレス発散
仕事が終わった後や休日には必ず運動をする
熱いお風呂に入って疲れをとる
これらの疲労対策・解消法のどんな点に誤解があるのか。正しい疲労対策・解消法とともに、梶本さんに解説していただこう。
栄養ドリンクは「疲労感」を一時的にごまかしている
疲れがたまっているときや、ここ一番の踏ん張りどきなどに、栄養ドリンクを頼りにする人は多いかもしれない。栄養ドリンクを飲むと、頭がすっきりと冴えたり、やる気が出たりするような感覚を持ちやすいことは確かだ。こうした感覚をもたらしているのは、栄養ドリンクの多くに含まれている、微量のカフェインやアルコールによるところが大きいと、梶本さんは話す。「カフェインには覚醒作用が、アルコールには気分を高揚させる作用があるものの、疲労回復効果はありません」(梶本さん)
第1回で、疲労の正体は「脳の自律神経の疲れ」であり、「疲労感」は脳が体に発信するSOS信号だと解説した。アルコールやカフェインはその覚醒作用や高揚感によって「疲労感」を一時的にごまかしている面があるわけだ。
栄養ドリンクに含まれる成分には、カフェイン、アルコールのほかに、ビタミンB類、アミノ酸、タウリン、漢方薬のエキスなどがある。だが、「実際にこれらの成分をとることで疲労が回復することが科学的に実証されているわけではありません」と梶本さんは指摘する。どうしてもがんばらなければいけないときに一時的に疲れをごまかしたり、成分として含まれている栄養を補うことはできるものの、過度な依存は禁物だ。
「米国ではカフェイン中毒などを招く恐れがあるとして、栄養ドリンクやエナジードリンクの過剰摂取が問題視され、米国医師会が未成年への販売禁止を呼びかけるなど、注意喚起しています。成人であっても、栄養ドリンクを慢性的に飲んでいると、疲労感を認識できなくなる『隠れ疲労』を招く恐れがあります」(梶本さん)
![]() | 栄養ドリンクは一時的にスッキリした感覚が得られるものの、疲労の予防や回復はあまり期待できない。過度な依存は「隠れ疲労」を招く恐れが。 |
「スタミナ食」は胃腸をますます疲れさせる
疲れたときは「精がつくもの」を食べて元気を出そうとする人も少なくない。ただ、食糧不足で十分な栄養がとれなかった時代ならともかく、飽食の時代と言われる現代では、栄養不足による疲れが起こることはまず考えにくい。
精がつくとされるいわゆるスタミナ食は、ウナギや焼肉など脂っこいものが多く、胃腸に負担がかかって余計に疲れることになる。「疲れたときは消化に良いものを食べた方が、内臓が休まり疲労回復の助けになります」(梶本さん)

![]() | 焼き肉やウナギなどの「スタミナ食」は脂肪が多く、胃腸に負担がかかって余計に疲れる。疲れたときは消化に良いものがお勧め。 |