しつこい疲労は自律神経からのSOS! 放置すれば老化にも
第1回 自律神経の機能は加齢により下がる一方、40代では20代の約半分に
田村知子=ライター
長引くコロナ禍で外出や通勤の機会は減っているのに、なぜだかやけに疲れる。蒸し暑くて体がだるく、夜もよく眠れない…。暑さが厳しいこの時期、そんなしつこい疲労に悩まされている人は多いのではないだろうか。疲労はさまざまな病気の原因になるだけでなく、放置しているとやがて不可逆的な「老化」につながる恐れもあることが、近年の研究で明らかになってきた。本特集では、疲労医学の第一人者である東京疲労・睡眠クリニック院長の梶本修身さんに、あなたにまとわりつく「疲労」の正体と、疲労解消に効果的な睡眠・食事・運動の秘訣を聞いていく。
『あなたを悩ます「疲労」の解消法』 特集の内容
- 第1回しつこい疲労は自律神経からのSOS! 放置すれば老化にも←今回
- 第2回脳をしっかり休ませ、疲労を回復させる睡眠のコツは?
- 第3回間違いだらけの疲労解消法 自律神経をいたわる食事と運動の秘訣とは
暑さや「まだら通勤」で疲労や不調を訴える人が増加
「通勤が減り、体を動かさなくなっているのに、疲れを感じる」「体がだるくてすっきりしない」「夜によく眠れない」――。疲労医学の第一人者として知られる梶本修身さんが院長を務める東京疲労・睡眠クリニックには、最近、このような疲労や不調を訴えて来院する患者が増えているという。
新型コロナウイルスの感染拡大により、1年以上にわたって外出を控える生活やテレワークを中心とした勤務スタイルが続いている。身体活動量は以前よりも減っているはずなのに、疲労感はむしろ増している…そんなふうに感じている人もいるかもしれない。暑さが厳しくなり、寝苦しさから疲労が蓄積している人もいるだろう。
実は、私たちが「疲れた」と感じるのは、運動や作業などで体を酷使することが原因になるわけではない。体の疲れを感じているときでも、その原因は「脳」にあるのだと、梶本さんは指摘する。

「疲労の原因となるのは、脳の中でも、呼吸や心拍、血液循環、体温の調整などを司り、24時間休みなく働く自律神経です。その中枢の視床下部と前帯状回(ぜんたいじょうかい)と呼ばれる部位が酷使されることによって、疲労が生じるのです」

自律神経が酷使されると、大量の活性酸素が神経細胞をサビつかせる
自律神経は、体の活動時や昼間に活発になる交感神経と、安静時や夜間に活発になる副交感神経で成り立ち、この2つの神経系統がバランスよく働くことで、呼吸や心拍などの生体活動が安定的に保たれている。疲労のメカニズムについては後ほど詳しく解説するが、長引くコロナ禍で迎えた夏に疲労を訴える人が増えている背景には「自律神経の中枢に負荷がかかり、疲労が悪化しやすい状態になっていることが考えられます」と、梶本さんは話す。
その主な要因は2つある。1つは生活や勤務スタイルの変化だ。とりわけ、外出自粛やテレワークの徹底が呼びかけられた当初よりも、出勤とテレワークが入り交じる不規則な勤務形態になっている最近のほうが、疲れがたまりやすいという。
「出勤とテレワークが混在すると、日によって就寝や起床時間が2時間ほどずれることも珍しくありません。そうした不規則な生活リズムが、自律神経の負担となり、疲労が蓄積する原因になるのです」(梶本さん)
もう1つの要因は、日本の夏の蒸し暑さだ。自律神経は体温調節の機能も担っているため、暑さが厳しくなるほどその負荷は大きくなり、疲弊する。
不規則な生活スタイルや暑さなどによって自律神経が酷使されると、大量の活性酸素が発生する。この活性酸素が自律神経を構成する神経細胞をサビつかせ、自律神経機能の低下を招く――。これが、疲労の根本的な原因だ。
疲労をケアせず放置すると「老化」につながる!
「疲労は、活性酸素によって脳の神経細胞が一時的にサビついて、自律神経機能が低下した状態です。このサビがこびりついてとれなくなり、元に戻らなくなった状態が『老化』です。つまり、疲労が解消されないまま蓄積していくと、老化を促すことにもなってしまうのです」(梶本さん)

「24時間休みなく働く自律神経は、実は体の中で最も老化しやすく、その機能は加齢とともに低下していきます」と梶本さんは説く。筋肉量も加齢とともに低下していくものの、筋力トレーニングなどを行えば、シニア世代でも増やすことは十分可能だ。だが、老化した自律神経は、元の状態に戻すことはできないという。「ですから、日頃から自律神経をいたわり、神経細胞のサビがこびりついてしまう前に疲労から回復させることが重要なのです」(梶本さん)
自律神経機能は加齢によってどのくらい低下していくのか。なぜ、脳の疲労が体の疲労となって表れるのか。さらに詳しく解説していこう。