運動不足で進む「巣ごもり老化」 気軽にできる「部屋トレ」でしっかり予防
第1回 「足の筋力・バランス力・柔軟力・握力」の4つをトータルに鍛える!
田中美香=医療ジャーナリスト
コロナ禍による巣ごもり生活が続くこと1年半。積もり積もった運動不足を解消しなければと思っている人も多いだろう。だが、ただでさえ暑く外に出づらいこの時期、外での運動は熱中症のリスクもある。また、新型コロナのワクチン接種が進んでいるとはいえ、当面の間は外出しにくい状況が続く見込みだ。そこで今回取り上げるのが、順天堂大学医学部附属順天堂医院健康スポーツ室が提唱する自宅で可能なトレーニング、「部屋トレ」だ。長い自粛生活で進む「巣ごもり老化」予防に効く部屋トレや、肥満や高血圧などに悩む人向けの目的別部屋トレについて紹介していこう。
『巣ごもり老化を防ぐ 「部屋トレ」の極意』 特集の内容
- 第1回運動不足で進む「巣ごもり老化」 気軽にできる「部屋トレ」でしっかり予防←今回
- 第2回週2~3回でOK!「巣ごもり老化」防止のための部屋トレ術
- 第3回高血圧、肥満、首コリ・肩コリ…中高年の不調に効く「部屋トレ」
大病の経験がない人ほど、巣ごもり老化が進む可能性大
コロナ禍で外出が制限されて巣ごもり生活が続き、多くの人にとって運動不足解消が大きな課題となっている。読者の中にも、「そろそろまずい」「もっと運動しなければ」と思っている人は多いことだろう。コロナ太りを嘆く人同士で、「私も!」「僕も!」と話が盛り上がるケースもあるようだ。
長期間に及ぶ運動不足は足腰や心肺機能を衰えさせる。いったん体の機能が衰えると、動くのがおっくうになり、ますます活動量が減っていく。活動しなければ食欲も体力も落ち、ロコモティブシンドローム(運動器症候群)やフレイル(加齢により心身の働きが弱くなった状態)などのリスクに直結。将来の寝たきりリスクも高まり、健康寿命の短縮につながりかねない。いわば、「巣ごもり老化」だ。運動不足は、高血圧や脂質異常症、糖尿病のような生活習慣病や、動脈硬化など、さまざまな病気の誘因にもなる。
「だから今こそ運動を!」と誰もが頭では思っているだろうが、実際、運動習慣がしっかりある人はどれくらいいるだろうか。
そもそも多くの場合、よほど大きなきっかけがない限り、生活を変えようというモチベーションにつながりにくい。順天堂大学医学部循環器内科学講座准教授の横山美帆さんは、「大きな病気を経験したことのない人のほうが、生活を変えようという意識は希薄だと感じます」と指摘する。
横山さんは心筋梗塞をはじめとする、心臓・血管の病気を持つ患者への運動療法に詳しい循環器内科医。横山さんが接する患者は、生命を左右する病気を抱えているだけに、真面目に運動を続ける人が多いという。生死を分ける瞬間に一度でも直面した人は、健康のありがたみを痛感している。薬が途切れないように注意し、適切な運動・食事を心がけているわけだ。
だが、健康な人や、生活習慣病などの持病があっても症状がない人はその限りではない。この1年半で、脂質異常症や高血圧が悪化して動脈硬化が少し進んだとしても、少々のことでは自覚症状が出ない。そのためコロナ禍が始まってからは、新型コロナの感染を避けることを優先し、通院をやめて勝手に薬を中断。運動もしないまま過ごす人が少なくないという。同様に、健康診断を先延ばしにする人も多いようだ。「このような状況では、今はまだ大事に至っていないだけで、将来起こるであろう心筋梗塞などの心血管病の発症が着々と早まっているかもしれません」(横山さん)

この現状に危機感を覚え、横山さんのグループは、『順天堂大学医学部健康スポーツ室式 長生き部屋トレ』を刊行。外出しなくても自宅でできる「部屋トレ」の普及に尽力しているという。
国立長寿医療研究センターの調査によると、コロナ禍以降、日本の高齢者の身体活動時間は1週間当たり約3割、約1時間も減少したという(*1)。また別の研究では、1日4時間未満しか座らない人に比べ、1日11時間以上座っている人は4割も死亡リスクが高いと報告されている(*2)。運動習慣があるかどうかは、今やわれわれの生死まで左右する重大事。それなのに、運動不足の人は確実に増えているのだ。
*2 Arch Intern Med. 2012;172(6):494-500.
鍛えるべきは、「足の筋力・バランス力・柔軟力・握力」の4つの力
では、運動不足を解消するにはどうすればいいのだろうか。実はこれにはコツがあり、やみくもに体を動かせばいいというわけではない。身体の機能が落ちた人が急に激しい運動を始めれば、思わぬところで足をとられ、転んでケガをするリスクもある。大切なのは、日ごろからのちょっとした運動の積み重ねだ。とはいえ、熱中症のリスクが高い盛夏の今、そしてコロナが完全に収束するまでは、屋外やジムなどでの運動はやりづらい。
「そこで今こそ取り入れたいのが、外出しなくても思い立ったときに自宅ですぐ気軽にできるトレーニング、『部屋トレ』です。巣ごもり老化を進めないために、【足の筋力・バランス力・柔軟力・握力】の4つの力を少しずつ鍛えてほしいと思います」(横山さん)

部屋でできるトレーニングというと、大した効果が得られないのでは?と思う人もいるかもしれない。また、都市部の集合住宅に住む人なら、「狭い部屋ではやりづらい」「騒音にならないか」などの不安もあるだろう。
しかしご安心いただきたい。本特集で紹介するトレーニング方法をきちんと実践すれば、上述した4つの力をバランスよく鍛え、巣ごもり老化にブレーキをかけることができる。どんなトレーニングでも、少しずつでも継続することで初めて効果は表れるが、部屋トレは思い立ったときにすぐに実践でき、継続しやすい点も魅力だ。もちろん広い空間は必要ない。今回紹介するもののほとんどは下の部屋への振動や音が心配ないものばかりだし、心配ならヨガマットなどを敷けば音を軽減できる。
以下、「巣ごもり老化」に歯止めをかけるために4つの力がなぜ大切なのか、どのような部屋トレで効果が得られるのか、具体的なところを横山さんに指南していただこう。