老化スピードの個人差なぜ? 30歳の差も 抗老化研究の最新事情
第1回 120歳まで健康寿命を延ばせる時代も近い!?
福島安紀=医療ライター
古来より多くの権力者が追い求めてきた「不老長寿」は、これまでは果たせぬ夢にすぎなかった。中国を初めて統一した秦の始皇帝も、永遠の命を望みながら49歳で生涯を閉じたといわれる。ところが、ここ数年、老化研究が急速に進み、ある程度健康を維持しながら100歳を超えて生きることや、「老化を遅らせること」が現実味を帯びてきた。米国の著名な研究者の中には「老化は治療できる病」であり、「健康なまま120歳まで生きられる時代が近づいている」と説く人もいる。そもそも老化とはどういうものなのか。本特集では、最新のサイエンスで分かってきた老化の正体と老化制御法を紹介しよう。
『見えてきた「老化」の正体』 特集の内容
- 第1回老化スピードの個人差なぜ? 30歳の差も 抗老化研究の最新事情←今回
- 第2回「空腹」が老化を遅らせる! 最新研究で分かった老化を制御する食事術
- 第3回老化防止には「プラス15分」の運動を 光との付き合い方もポイントに
見た目が老けている人は体の中の老化も進んでいる可能性大
「階段を上ると息が切れる」「最近、眠りが浅い」「顔のしわが目立つようになった」……。そんな老化現象を実感したとしても、「年のせい」とあきらめていないだろうか。そんな方々に朗報だ。近年、老化研究が進み、老化の要因や老化を制御する方法について、いろいろなことが分かってきたからだ。
老化研究の最前線で活躍する慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室特任講師の早野元詞さんは、「誰でも毎年1歳ずつ年をとり、加齢は避けられませんが、老化が進むスピードには個人差があります。最新の老化研究により、その進行スピードを緩やかにして老化現象を抑えつつ年をとることが、近い将来、可能になるかもしれません」と話す。
早野さんは、慶應義塾大学医学部で老化の原因解明と治療法の開発を行い、健康寿命を延ばすプロダクティブエイジング(*1)の社会実装を目指す研究者の一人だ。米ハーバード大学医学大学院のデビッド・シンクレア教授(遺伝学)の研究室で老化研究に取り組んだ経験も持つ。シンクレア教授は、老化や若返りの方法に関する研究についてまとめた世界的なベストセラー『LIFESPAN(ライフスパン) 老いなき世界』の著者で、「老化は治療できる病」であり「健康なまま120歳まで生きられる時代が近づいている」と説く著名な研究者だ。
早野さんも言及するように、海外では、老化が進むスピードには個人差があることを示す興味深い研究が行われている。そのうちの一つの研究(*2)では、ニュージーランドの約950人を26歳から12年間追跡調査し、38歳時点の生物学的年齢を比較した。生物学的年齢の判定材料としたのは、体の代謝能力を表す血糖値に関わる指標であるHbA1c、心肺持久力、腎機能を示す数値など18の指標だ。すると、実年齢が同じ38歳でも、生物学的年齢は実際より若い28歳から老化が進んだ61歳まで33年もの差があったという。

生物学的年齢が高い人は、握力や脚の筋力が低下し、認知機能の低下も始まっていた。もともと慢性疾患はなく、まだ老化を意識することが少ないと見られる38歳で、生物学的年齢にこれだけの差があるというのは驚くべき事実だ。
こうした話を聞いて、「あるある!」と思い当たる読者の方も多いのではないだろうか。同じく時を重ねてきているにもかかわらず、50歳で驚くほど若く見える人がいる一方で、別の人は10歳以上年を取って見える…というケースは少なからずある。できることなら前者でありたい、というのは多くの人が望むことだろう。
また、最近の60歳の人は昔に比べて元気で若々しい、などという話もよく耳にする。実際そう感じている人も多いだろう。
では、そうした差はどこから来るのだろうか。生まれる前から遺伝によって決められているものなのか?