中高年、筋トレ効果を高める極意 カギは「脳との連携」だった!
第3回 筋肉の張りを良くして、神経の伝達をスムーズに
田村知子=ライター
「『筋トレ』で健康寿命を延ばす」をテーマにした本特集。前回は、中高年期以降の筋トレ効果を高めるための5つの原則と、歩行機能を維持するために不可欠な「抗重力筋」を効率よく鍛える4つの筋トレメニューをレベル別に紹介した。第3回は、抗重力筋を鍛えながらも、「筋肉と神経のつながり(神経筋連関)」を良くする動きを取り入れた2つの筋トレメニューを紹介する。従来の筋トレとはどんな点が違うのか。引き続き、東京都健康長寿医療センター研究所・高齢者健康増進事業支援室研究部長の大渕修一さんに解説していただこう。
『筋トレで健康寿命を延ばす』 特集の内容
- 第1回「歩く速度」が落ちたら大ピンチ! 衰えを感じた人ほど筋トレ効果は大
- 第2回健康寿命延ばす筋トレ 狙うは「抗重力筋」、効果最大化のコツ
- 第3回中高年、筋トレ効果を高める極意 カギは「脳との連携」だった!←今回
筋細胞の減少をカバーして、脳と一体のトレーニングを
これまでにお伝えしてきたように、加齢とともに加速する筋力の低下を維持・向上させるには、減少した筋肉の細胞に刺激を与えて、活性化することが重要だ。そのためには筋力トレーニングが有効だが、加齢とともに、筋トレ効果が生活機能の変化として表れにくくなってくる、と東京都健康長寿医療センター研究所・高齢者健康増進事業支援室研究部長の大渕修一さんは指摘する。
「従来の筋力トレーニングは、車で例えるならば、エンジンを大きくするようなもの。しかし、年季が入ってくると、あちこちのパーツに衰えが出てくるため、エンジンだけを大きくしても車は機能しなくなってきます。エンジンを効率よく動かすためには、そこにつながる配線も含めて整備して、トータルシステムとして働くようにしなければいけない。つまり、脳からの指令を伝える神経と筋肉のつながりをよくする必要があるということ。そうした『神経筋連関』を高めるトレーニングを加えていくことが大切になってくるのです」(大渕さん)

中高年期以降、筋力が低下してくると、とっさの動きができない場面を経験したことのある人は多いだろう。何かにつまずいて「あっ!」と思っても、足が前に出ずもつれてしまう。モノが落ちかけたときに、パッとつかむことができない――。そうしたほとんど無意識の動作ができなくなってくるのは、神経筋連関がスムーズにいかなくなっていることが影響している。
神経筋連関をスムーズにするには、人間に原始的に備わっている手足の動き(原始的反応)をトレーニングに取り入れると効果的だと、大渕さんは話す。
例えば、握力を測るときには、片手で握力計をギュッと握る。そのとき、反対側の手も無意識に握る動作をするという。「両手をギュッと握り締めたほうが、力を出せることが人間に原始的に備わっているからです。原始的な反応に対抗して、握力計を握らないほうの手を開いたままにしておくと、握力が小さくなります。力を込めるときにはギュッと手を握るはずなのに、脳の指令とは違う動作をしているので、神経が混乱してしまうのです」(大渕さん)

このように、人間には原始的に備わっている動きのパターンがあり、その代表的なものが手の曲げ伸ばしに伴う動きだ。生活での動作を思い浮かべてみると分かりやすいかもしれない。例えば、棚にあるモノを取ろうとするときは、腕を伸ばして手のひらや指を開く。そして、そこからモノを取るときには、手のひらや指でギュッとつかんで、腕を曲げて引き寄せる。
「腕を上げるときはパッと開く、腕を曲げるときはギュッと握る。これが本来の動作のパターンで、基本的なメカニズムです。こうした動きを意識的に行っていくと、神経筋連関がスムーズになって、身体が活性化されやすくなります」(大渕さん)
そのほかにも、「非対称性緊張性頸反射」と呼ばれる動きがある。これは新生児に見られる原始反射だ。