「歩く速度」が落ちたら大ピンチ! 衰えを感じた人ほど筋トレ効果は大
第1回 中高年のうちから意識したい「抗重力筋」と「筋肉×神経」
田村知子=ライター
新型コロナウイルスの感染拡大以降、外出や運動の機会が減っている人は多い。久しぶりに仕事や買い物などに出かけたときに、「以前よりも歩く速さが遅くなった」と感じることはないだろうか。歩行速度はいわば、その人の「生活機能の健康度」の指標であり、若々しさを保つためにも重要なものだという。
歩行能力を維持する筋力は加齢とともに低下してくるが、その一方で、ポイントを押さえた「プラスα」の刺激(トレーニング)を生活に加えることで、筋力は何歳になっても維持どころか向上もできる。そこで本特集では、「健康寿命を延ばす」ことに重点を置いた筋力トレーニングを専門家が厳選して紹介する。第1回では、中高年以降の筋トレの意義や効果について解説しよう。
『筋トレで健康寿命を延ばす』 特集の内容
- 第1回「歩く速度」が落ちたら大ピンチ! 衰えを感じた人ほど筋トレ効果は大←今回
- 第2回健康寿命延ばす筋トレ 狙うは「抗重力筋」、効果最大化のコツ
- 第3回中高年、筋トレ効果を高める極意 カギは「脳との連携」だった!
10年にわたる老化予防研究で明らかになったこと
「40歳を過ぎたころから太りやすくなってきた」「若いころに比べて疲れやすくなった」「階段の上り下りがしんどい」。40〜50代のミドル世代になると、こうした身体の変化を実感するようになる。60代以降になると、さらに体力の衰えを感じることが多いだろう。その大きな要因となっているのが、筋力の低下だ。
東京都健康長寿医療センター研究所・高齢者健康増進事業支援室研究部長の大渕修一さんは、「下肢の筋肉量は20~30代で最大となり、中高年期以降加速的に減少。60歳以上になるとピーク時の15%減、70歳以上になると30%減となります」と話す。

大渕さんは1991年から東京都老人総合研究所(現在の東京都健康長寿医療センター研究所)で老化予防に関する様々な追跡研究を行っている。同研究所が2001年から2010年の10年にわたって、中年期からの老化予防をテーマに追跡研究(*1)を行ったところ、中高年期以降の運動機能には、いくつかの特徴があることが分かったという。主に次の3点だ。
中高年期以降の運動機能の主な特徴
- 運動機能は加齢とともに低下し、進行していく
- 運動機能の個人差は、年齢が進むにつれて大きくなる
- 運動機能は将来の生活機能に影響を及ぼす
若いころは「運動が苦手」「仕事が忙しくて、運動をする時間がない」といっていても、それなりに活動量があれば大して困ることはなかったかもしれない。ところが、筋力が低下してくる中高年期以降、特に60歳を超えるようになってくるとそうはいかない。
「加齢とともに加速する筋力の低下を予防するには、筋肉の細胞に刺激を与えて活性化する必要があります。体力の衰えを感じ始める中高年期以降は、意識的に筋細胞に『プラスα』の刺激を与えられるかどうかで、将来の健康度が違ってきます」(大渕さん)
筋力の低下に伴って体を動かす機会が減ってくると、運動機能が低下して、日常生活に様々な不具合が生じてくる。例えば、小さな段差でもつまずいて転倒したり、転倒の際に骨折したりしやすくなる。手足の関節が痛んで、重い物を持ったり、階段の上り下りをしたりするのがつらくなったりもする。そうすると、ますます体を動かしにくくなり、活動量が減少する悪循環に陥ることで、身体機能の低下のリスクを高めてしまう。また、活動的な生活を送れなくなると、外出や人とのコミュニケーションの機会も減ってしまい、うつ状態や認知症につながる危険性もある。
「加齢によって日常生活に様々な不具合が生じ、健康的な生活を送れない状態を『老年症候群』と呼びます。老年症候群を予防するには、十分な活動ができるように、身体機能を維持・向上することが大切。それには、筋トレが最も楽な近道です」(大渕さん)
筋トレをすれば、90代でも筋力を高めることは可能
老年症候群を予防するには、筋トレを習慣にするのが効果的―― そう聞くと、「自分はこれまで筋トレはしてこなかったから手遅れだ」「すでに足腰が弱っていて、筋トレをするのは難しい」と感じる人もいるかもしれない。しかし、大渕さんは「そんな人にこそ、筋トレをお勧めしたい」と強調する。というのも、筋トレには次のような特徴があるからだ。