血管力を上げる運動・食事・睡眠の基本ルール 「なんちゃって」が継続のカギ
第3回 血流を良くしてNOを増やし、血管の若さを取り戻そう
田中美香=医療ジャーナリスト
私たちの血管は、年を取るだけでも劣化が進んでいく。だが、池谷医院(東京都あきる野市)の池谷敏郎さんによると、運動や食事、睡眠などを見直せば、いくつになっても血管力を向上させることができ、心筋梗塞や脳卒中などの血管事故を起こさないようにすることも可能だという。今回は、池谷さん自ら続けてきた血管力アップ法のうち、主なものを紹介しよう。早く始めるほど効果が上がるというから、今日から実践あるのみだ。
『「血管力」を上げる』 特集の内容
- 第1回血管は「健康寿命」の要 無症状でも油断できない「動脈硬化」
- 第2回健康寿命や突然死回避のカギ握る「血管力」 測定する方法は?
- 第3回血管力を上げる運動・食事・睡眠の基本ルール 「なんちゃって」が継続のカギ←今回
血管力アップのポイントは、運動・食事・睡眠の3つ
多かれ少なかれ、誰でも年を重ねれば血管の劣化は避けられない。そこに喫煙や食べ過ぎ、飲み過ぎ、運動不足などが加わったとき、一気に進むのが「動脈硬化」だ。
動脈硬化の多くは症状がないまま進行し、やがて突然死や、健康寿命を縮める病気を引き起こすようになる。そうならないように血管の若さを保ちたい、誰もがそう思うだろう。
では、血管の若さを保つためには何が必要なのだろうか。「血管力」という言葉の生みの親である、池谷医院院長の池谷敏郎さんは、「血管力を上げるには、運動・食事・睡眠の3つを見直すことが大切です」と指摘する。
「動脈硬化は若い頃から少しずつ進むので、完全になかったことにするのは大変です。しかし、動脈硬化があっても、心筋梗塞や脳卒中などの血管事故を起こさないように、血管のコブ(プラーク)を小さくしたり、硬くなった血管にしなやかさを取り戻すことはできます。血管は、努力次第でいい方向に向かわせることができるのです。ただ、早ければ早いほどいいので、すぐに着手してほしいと思います」(池谷さん)
池谷さんは血管力アップに効くさまざまな方法を紹介し、自ら実践してきた医師。実年齢より30歳近い血管年齢をキープしているというから、その言葉には説得力がある。
池谷さんが勧める血管力アップのポイント、運動・食事・睡眠の3つのうち、まずは最も手っ取り早く効果が得やすい「運動」から見ていこう。
一酸化窒素(NO)をバンバン増やすのが、血管力アップの近道
血管には、動脈、静脈、毛細血管などがあるが、血管事故の舞台となるのは動脈だ。動脈の壁は3つの層で構成され、内側で血流に接する内膜は、「内皮細胞」という細胞にびっしり覆われている。

その内皮細胞から分泌されるのが、運動と血管を語る上で欠かせない物質、「一酸化窒素」(NO、エヌオー)だ。
NOは、血管を拡張させ、血液をスムーズに巡らせる作用を持つ物質だ。NOが増えれば、血圧が安定する、血管の炎症を抑える、血管を塞ぐ「血栓」の発生を抑えるなどの効果がもたらされる(下図)。NOをバンバン増やすことは、血管力アップの近道なのだ。

われわれの体には、血管の中でNOを生み出す仕組みが備わっている。その手段として最も有効なのが、ウォーキングや軽いジョギングなどの有酸素運動だ。体を動かすと全身で酸素や栄養が必要となって、心臓から多くの血液が送り出される。すると血流が血管の内壁を刺激し、NO分泌が促されるようになる。
「有酸素運動や筋トレなどをしたとき、筋肉から分泌される『ブラジキニン』という物質にも、NOを増やす作用があります。そのため、有酸素運動と併せて、軽い筋トレなど、筋肉をよく動かす運動も取り入れるのがお勧めです」(池谷さん)。ただし、いきむような激しい筋トレは血管に負担となって血圧が上がるため、高血圧の人は軽度の筋トレにとどめておこう。
「有酸素運動で効率良くエネルギーを燃やすには、筋肉も必要です。浅いスクワットや、あおむけに寝転んで膝を立てた状態で頭を持ち上げおへそを少し見るような腹筋運動(クランチ)など、ごく軽い筋トレも加えるといいでしょう。腕立て伏せも、床に肘をついた姿勢をキープするだけで構いませんし、無理なら膝をついてもいい。『なんちゃって腕立て伏せ』でも効果が得られます」(池谷さん)
このように、池谷さんが勧めるのはハードな運動ではないから、運動習慣のない人も心配無用だ。隙間時間を利用した細切れの、“ながら運動”でいいので日常生活に取り入れてみよう。