健康寿命や突然死回避のカギ握る「血管力」 測定する方法は?
第2回 血管年齢だけで血管力を語ることはできない
田中美香=医療ジャーナリスト
加齢に伴って血管はしなやかさを失い、血管の内壁にコブができる「動脈硬化」が進む。そうした血管の老化は健康寿命を脅かし、心筋梗塞や脳梗塞などにつながりかねない。自分の血管は大丈夫なのか、と気になるところだが、調べるにはどうすればいいのだろうか。その方法の1つに「血管年齢検査」があるが、「それだけでは不十分で、真の『血管力』を評価するには限界があります」と、血管先生の異名を持つ、池谷医院(東京都あきる野市)院長の池谷敏郎さんは話す。そもそも血管力とは何か? 血管力はどんな検査で分かるのか? 詳しいところを池谷さんに解説していただこう。
『「血管力」を上げる』 特集の内容
- 第1回血管は「健康寿命」の要 無症状でも油断できない「動脈硬化」
- 第2回健康寿命や突然死回避のカギ握る「血管力」 測定する方法は?←今回
- 第3回血管力を上げる運動・食事・睡眠の基本ルール 「なんちゃって」が継続のカギ
血管力は、血管の「しなやかさ・内壁のなめらかさ」で評価する
心臓周辺の大きな動脈や脳の血管が「詰まる」「切れる」などの“血管事故”を起こすと、突然死することもあれば、一命を取り留めても麻痺が残って寝たきりになってしまうこともある。その源流にあるのが、血管が劣化して傷つき、そこにコレステロールが潜り込んでコブ(プラーク)と化す、「動脈硬化」だ。
意外なことに、この血管にできるコブは、大きいほど危険とは限らない。実は動脈硬化の初期段階とも思えるような小さいコブのほうが、血管事故を起こす可能性が高いとの研究結果もある。――前回は、このような動脈硬化の意外な一面について解説した。
動脈硬化は、高血圧や脂質異常症(中性脂肪や悪玉〔LDL〕コレステロールが高くなったり、善玉〔HDL〕コレステロールが低くなったりして、血液中の脂質のバランスが悪くなる状態)、高血糖、喫煙、肥満などのリスク要因が重なるほど生じやすくなる。喫煙を除けば、どれも健康診断で、自分のリスクの大きさをある程度知ることができるものばかりだ。しかし、健康診断の数値だけでは、血管にコブができているのか、あるとしたら破れやすい危険なコブなのかどうか…といったことまでは分からない。そうした危険性も含めた血管の内壁の状態について、血管事故が起きないうちに知りたいところだが、何を調べればいいのだろうか。
ちまたで耳にすることのある「血管年齢」を調べればいいのではないか? と思う人もいるだろう。血管年齢は「脈波(みゃくは)」を調べる検査で、あちこちの医療機関や人間ドックなどで調べることが可能だ(詳しくは後述する)。だが、「血管力」という言葉の生みの親である、池谷医院院長の池谷敏郎さんによると、血管の内壁の状態まで知るには血管年齢を調べるだけでは不十分だという。
「どうすれば動脈硬化を元凶とした血管事故を防げるのか。そのカギを握るのは『血管力』だと私は考えています。血管力とは、『血管がしなやかさを保っているか』『血管の内壁がなめらかで、血液がスムーズに流れているか』の2点を評価したものです。血管年齢では、血管のしなやかさを評価することができます。しかし、血管年齢だけでは、血管の内壁がなめらかで血液がスムーズに流れているかどうかや、血管事故につながりやすいブヨブヨしたコブがないかどうかを評価するには限界があるのです」(池谷さん)

では、どんな検査をすれば血管力が分かるのか、血管力を測る医療機関の検査方法、そして私たちが毎年受けている健康診断から推定できるセルフチェック方法について、池谷さんに聞いていこう。
血管年齢は、血管の「しなやかさ」を示す指標である
池谷さんが挙げる血管力の条件の1つは、「血管がしなやかさを保っているか」だという話をした。その指標となるのは前述した血管年齢だ。
血管年齢では、「脈波」という、血管がドックンドックンと脈打つ際の波形や速さを調べ、加齢とともに硬化する血管の硬さが、何歳相当まで進んでいるのかを推定する。脈波は、心臓から血液が送り出されるときに血管壁にかかる圧力の波形や、圧の波が血管壁を伝達する速度を記録するもので、脈を“見える化”したものだと考えればいいだろう。脈波の測定には2つの方法がある。

まずは、脈波の「形」を見る「加速度脈波検査」だ。この検査では人差し指を小さなセンサーの中に入れ、指先の脈の波形を計測する。指先の脈波の山部分の高低や、谷部分の深さなどの形状から、血管がどのくらい硬いかを割り出せるのだ。「血管が硬くなると、下図のように脈波に特徴のある波形が表れるようになります。それを調べるのが加速度脈波検査です」(池谷さん)
