血管は「健康寿命」の要 無症状でも油断できない「動脈硬化」
第1回 自覚症状のない動脈硬化のほうが、心筋梗塞や脳梗塞を起こしやすい!?
田中美香=医療ジャーナリスト
血管の状態は、老化や健康寿命を左右する要因だ。血管が傷んで老化すると、血管壁にプラークというコブができる「動脈硬化」を起こす。この動脈硬化は、心筋梗塞などの“血管事故”の元凶となるが、血管事故を起こすのは、長年かかって大きくなったコブだけではない。むしろ小さなコブのほうが、心筋梗塞の原因となる危険性が高いとする研究結果もある。本特集ではそんな動脈硬化の正体と、その予防として「血管力」を上げるためのノウハウを紹介しよう。
『「血管力」を上げる』 特集の内容
- 第1回血管は「健康寿命」の要 無症状でも油断できない「動脈硬化」←今回
- 第2回健康寿命や突然死回避のカギ握る「血管力」 測定する方法は?
- 第3回血管力を上げる運動・食事・睡眠の基本ルール 「なんちゃって」が継続のカギ
がんに次いで多い死因は、「血管の老化」から起こる病気である
人は血管から老化する――という言葉を聞いたことがある人は多いだろう。私たちの臓器や筋肉はすべて、血液中に含まれる酸素や栄養素が届くことで機能する。血管が老いれば、各臓器の機能も低下し、全身の老化が進むのは当然のことだ。
動脈が詰まれば心筋梗塞や脳梗塞を起こし、最悪の場合は突然死、あるいは命が助かっても長いリハビリを要する可能性がある。寝たきりで要介護状態となることもあるだろう。さらに、血管は認知機能とも深い関わりを持つ。脳出血や脳梗塞を起こした後、認知症(脳血管性認知症)を発症する恐れがあることは、読者の皆さんもご存じの通りだ。
実際、「血管の老化」がもとで死亡するケースは多い。現在、日本で死亡者数が最も多い病気は「がん」だが、血管の老化がもとで起こる病気も、がんに負けず劣らず多い。下のグラフを見ると、2位の心疾患(心臓に起こる病気の総称)と、4位の脳血管疾患がそれに該当する。

心疾患の多くは、心筋梗塞や狭心症など、心臓に栄養を送る動脈(冠動脈という)が「狭まる」または「詰まる」ことによって起こる。そして脳血管疾患は、脳梗塞や脳出血など、脳の血管が「詰まる」または「切れる」ことから発生する。2019年度の統計によれば、31万人を超える日本人が、脳心血管系のトラブルにより亡くなっていることになる(*1)。
池谷医院(東京都あきる野市)院長の池谷敏郎さんは、血管が詰まったり切れたりする病気のことをまとめて「血管事故」と呼ぶ(下図)。池谷さんは「血管力」をキーワードにした数々の著書で知られ、“血管先生”の異名を持つ医師で、血管の大切さについてこう説明する。
「突然死の原因として最も多いのが、動脈硬化から始まる血管事故です。血管事故が怖いのは、突然死だけでなく、脳梗塞のように麻痺や認知症が残って健康寿命が短くなる場合もあることです。こうした事態を防ぐためには、動脈硬化を改善して血管の若さを保つことが大事です」(池谷さん)

動脈硬化は日経Goodayでもよく出てくる言葉の1つであり、どうやって起こるかはご存じの方も多いだろう。詳細は次ページで解説するが、加齢のほか、脂質異常症(中性脂肪や悪玉〔LDL〕コレステロールが高くなったり、善玉〔HDL〕コレステロールが低くなったりして、血液中の脂質のバランスが悪くなった状態)、高血圧、高血糖、喫煙、肥満(メタボリックシンドローム)といった要因があると、血管壁が傷ついて動脈硬化が進み、血管壁に脂ぎったコブ(プラーク、詳しくは後述)ができる。そうやって、例えば冠動脈の空間(内腔)が狭くなれば狭心症を、血栓などで詰まれば心筋梗塞を発症する。
動脈硬化が血管事故の元凶だという事実については、「そんなことは知っている」と思う人もいるだろう。しかし、動脈硬化には意外な一面があると池谷さんは話す。
「長年かけて大きくなったコブが血管にあると、血管の内腔が狭くなります。ところが、心筋梗塞をよく起こすのはそのタイプではありません。実際は、血管がそれほど狭くなっていない、動脈硬化の初期段階とも思えるような小さいコブこそ、ある日突然詰まることが多いのです」(池谷さん)
さらに、「コロナ禍の今、血管事故の発生リスクのある人が通常時より多くなっている可能性があります」と池谷さんは指摘する。自粛生活で外出しなくなり、運動不足や食べ過ぎ、ストレスなどによる肥満(メタボリックシンドローム)から、動脈硬化のリスクが高まっている人が増えつつあるからだ。
便利で飽食の時代となった現在、運動不足と過食による生活習慣病を持つ人は多い。その上、コロナ禍の自粛生活が続くことになれば、生活習慣病の増悪のみならず、ストレスによる血圧上昇も生じやすく、血管事故の危険性が高まる。
では、血管事故に直結しやすい動脈硬化にはどんな特徴があるのか? 動脈硬化の予兆を知り、リスクを減らすための手立てはあるのか? ――本特集では、全身にはりめぐらされた「血管」にフォーカスし、その劣化を食い止める「血管力」の高め方について、池谷さんの解説に沿って見ていこう。