「やめたい」ときは、自分の本質の欲求や願望に気づくチャンス
問題解決のカギを握る「新しい物語作り」とは
柳本操=ライター
仕事やパートナーシップなど、「やめる・やめない問題」に直面するのは、誰にとっても難しい課題だ。「複雑な問題だからこそ、計画通りにいかない現実への覚悟をし、現状を冷静に観察しながら進んでいくことが大切」と言うのは、「やめる・やめない問題」との向き合い方を著書『心をリセットする技術』で解き明かす、元自衛隊心理教官の下園壮太さん。最終回の今回は、変化の時代の中で「自分にとってこれが大切」という自分の本質と向き合ってみることの重要性を聞く。
元自衛隊心理教官に聞く「心のリセット術」
- 第1回やめる決断は「オール自己責任」だから難しい 後悔しない乗り越え方
- 第2回自衛隊で培った 「何かをやめる」ときの疲弊しない物事の進め方
- 第3回「やめたい」ときは、自分の本質の欲求や願望に気づくチャンス←今回
やめたくて苦しむときにこそ、自分にとって何が大切か浮かび上がる
第1回の「やめる決断は『オール自己責任』だから難しい 後悔しない乗り越え方」では、「やめる・やめない問題」の難しさについて、第2回の「自衛隊で培った『何かをやめる』ときの、疲弊しない物事の進め方」では、「やめたい」と思ったときの心構えと作戦の立て方を教えていただきました。
「やめる・やめない問題」で前進していくときには、少し動いて、体勢が崩れたら再び立て直しながら動く、という作戦が重要だと分かりました。そこで一つ知りたいのですが、「やめる・やめない問題」と向き合うなかで、「そもそも自分はどうしたいのかが分からなくなった」ということもあると思うのです。目的を見失ってしまった、というような気持ちになったら、どうすればいいのでしょう。

下園さん カウンセリングでも、目的を見失っている人は大勢います。仕事をやめたい人に「そもそもどうしてこの仕事を選んだのですか」と私が質問すると、びっくりしたように「ああ、そんなこと、もう長い間忘れていました」とおっしゃることがあります。パートナーシップなども、そうかもしれませんね。
これまでにお伝えしたように、疲れ果てている人はまず休養をとることが重要ですが、いざ少し元気になってきたとき、スムーズに「やめる決断」ができる人もいれば、もう少し踏ん張ろう、と「やめない」ことを選ぶ人もいます。もちろん、どちらになっても、大切な選択です。一方で、おっしゃったように、「まだモヤモヤして結論が出ない」ことのほうが実際は多い。やめる・やめない、どちらかに進む必要性は感じているけれど、一歩をどうしても踏み出せない。
このとき求められているのが、その人にとっての「新しい物語作り」なのです。
物語作り。聞き慣れない言葉なので、詳しく教えてください。
下園さん 私たちは、意識しようとしまいと、ある方向に進むときに、自分の生き方、選択について、理性で何らかの「物語」を設定しています。例えば、「家族を養うためにとにかく会社を辞めない」とか、「自分の能力を伸ばせる場があるならいつだって転身してやる」などというふうに。それが「物語」、つまり、人それぞれの目標設定や、立ち位置への解釈、ともいえます。ずいぶん若い頃に作った物語をもとに、ずっと走り続けてきた、という人も多いはずです。
一方、今までの物語、やり方ではにっちもさっちもいかなくなった、と行き詰まったときに「自分はこれからはこんな目標に向かって進んでいく」「私にとって、これが大切なことだったんだ」と生き方の方向性が定まると、そこに新たな物語を作ることができます。
「やめる・やめない問題」は、これまであなたを支えてきた物語をいったん見直し、整理する必要性を要求してきます。さらに言うと、「やめる・やめない問題」は、実際に何かをやめる・やめないと決めたときではなく、新しい物語を作ることができたときに、やっと解決するのです。
「やめたい」と思って試行錯誤するうち、クライアントは自分の思考や行動の重要な基準となっている価値観に気づいていきます。それを私は「ゴールデンファイル」と呼んでいます。
自分にとって大切なことを誰もがファイルにしまってありますが、それはその人にとってあまりにも「当然」のことなので、自分でも何が入っているのか気づかないこともある。しかし、ゴールデンファイルは確実に、その人の行動を支配しています。何かに悩んでいるときは、そのゴールデンファイルが葛藤の原因となっていることが多く、それに気づくことができると、新たな物語作りが進みやすくなります。
