自衛隊で培った 「何かをやめる」ときの疲弊しない物事の進め方
やめる問題に向き合う際に意識したい「OODA(ウーダ)ループ」とは?
柳本操=ライター
仕事や今の自分の生き方を「やめたい」と思いつつもなかなか決断できず、頭の中を常にその問題がぐるぐる…。「いっそすべてをリセットしたい!」と勢いに任せて行動すると、後悔することに――。そんな、複雑で難しい「やめる・やめない問題」との向き合い方を、著書『心をリセットする技術』で解き明かすのが、元自衛隊心理教官の下園壮太さんだ。今回は、自衛隊での長年の経験から下園さんが導き出した、「やめたいとき」の心構えについて聞く。エネルギーを無駄に消耗せず、いたずらに不安を拡大させず、建設的に「やめたい」というテーマに向き合っていくには、それなりの計画と、「大人の戦い方」が必要だという。
元自衛隊心理教官に聞く「心のリセット術」
- 第1回やめる決断は「オール自己責任」だから難しい 後悔しない乗り越え方
- 第2回自衛隊で培った 「何かをやめる」ときの疲弊しない物事の進め方←今回
- 第3回「やめたい」ときは、自分の本質の欲求や願望に気づくチャンス
「やめたい」ときの“見切り発車”はリスクが大きい
第1回「やめる決断は『オール自己責任』だから難しい 後悔しない乗り越え方」では、「やめる・やめない問題」は手ごわい課題であること、しかし、「自分はどうありたいか」を見直す心機一転のチャンスでもあることを解説していただきました。
下園さんは、陸上自衛隊でメンタルヘルス全般を取り扱う自衛隊初の「心理幹部」として指導をされてきましたが、自衛隊においても「やめる・やめない問題」は大きなテーマだったのでしょうか。

下園さん 私は心理幹部として、隊員の「うつ」と繰り返し向き合ってきました。一般の人からは、心身ともに屈強、あるいは心が折れないようにトレーニングを積んでいるように見えるかもしれませんが、隊員もみなさんと同じように、当たり前に傷ついたり疲れたりする生身の人間です。過酷な任務で自信を失ったり、気づかないうちにストレスをためてうつになる人はたくさんいました。
うつになった隊員と向き合う中で気づいたのは、「うつになると、不思議なくらい、休むことができなくなる」こと。この心理メカニズムを私は、「しがみつき」と名付けました。
疲れをためてうつ状態になったとします。疲れの原因が明らかに仕事であるとき、休むことが何よりの特効薬です。しかし、疲れがさほどたまっていないときには「休もう」と苦もなく即決できる人が、疲れがたまるとその決断ができなくなる。この矛盾の原因となるのが仕事への「しがみつき」です。
仕事にしがみついてしまうのは、以下のような「仕事の魔力」があるゆえです。
- 休まず働けば、経済的に安定し、お金の不安が軽くなる
- 私生活でトラブルがあっても仕事に行けばその間は集中し、嫌なことを考えなくて済む
- 自分に自信がなくなっているが、仕事をしている限り周囲から必要とされ、自分は役に立っているように思える
このような魔力があるから、人は今の仕事にしがみついてしまう。仕事がうつ状態をごまかす「薬」になってしまうのです。
確かにそれは魔力といえますが、お金の不安はやはり大きいですし、誰かに必要とされている、ということはありがたいことでもあり、仕事にしがみつきたくなる気持ちはよく分かります。苦しい、でも続けていればとりあえずなんとかなる、と思ってしまうのですよね。自分の経験では、心身ともに疲れがたまってくると「つらさから逃れてゼロにしたい、リセットしたい」という思いもありました。
下園さん 私のクライアントもそうです。疲労のレベルが深刻化すると、相関するようにネガティブな気持ちが強くなります。しがみつきの引力も増して、つらさが強まるがゆえに、やめたいという気持ちが大きくなる、つまり葛藤が肥大するのです。
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