やめる決断は「オール自己責任」だから難しい 後悔しない乗り越え方
第1回 「やめる・やめない問題」をこじらせる3要因とは?
柳本操=ライター
先行きの見えないコロナ禍の中で、生活が大きく変わり、仕事、パートナーとの関係など何かを「リセットしたい!」と悶々としている人もいるだろう。しかし、転職、離婚にせよ、禁煙、禁酒にせよ、これまで続けていたことをやめることは人生の大きな決断であり、「もうやめたい」「いや、やっぱりできない」…といった葛藤がつきまとう。気がつくとそのことばかり考え続け、いつまでたっても結論が出ない、ということになりがちだ。このような「やめる・やめない問題」との向き合い方を著書『心をリセットする技術』で解き明かすのが、元自衛隊心理教官の下園壮太さん。私たちが何かをリセットしたくなったとき、どのようにこの気持ちと向き合っていけばいいのか、下園さんに聞いた。
元自衛隊心理教官に聞く「心のリセット術」
- 第1回やめる決断は「オール自己責任」だから難しい 後悔しない乗り越え方←今回
- 第2回自衛隊で培った 「何かをやめる」ときの疲弊しない物事の進め方
- 第3回「やめたい」ときは、自分の本質の欲求や願望に気づくチャンス
コロナ禍における「イライラ」がやめたい気持ちのトリガーになる
下園さんが2月に出された著書『自衛隊メンタル教官が教える 心をリセットする技術』(青春新書インテリジェンス)を拝読しました。身の回りでも、コロナ禍によるリモート生活で、自らの仕事のやり方や適性についてあらためて考えたとか、疲労やストレスがたまって会社を辞めたくなっている、あるいは夫婦仲の悪さが表面化してきた、といった声を聞きます。誰もが、大なり小なり、これまで歩んできた道やこれから歩む未来について立ち止まって考え直したのではないでしょうか。下園さんがこのテーマで本をまとめようとされたのは、どのような思いからだったのですか。

下園さん 今おっしゃった、「誰もが自分のこれまでとこれからを立ち止まって考えた」というのはその通りだと思います。コロナ禍以前は忙しくて立ち止まる余裕もなかったけれど、2度にわたる緊急事態宣言などを受け、世の中全体が揺さぶられています。
「コロナ離婚」という言葉が注目されたように、安定していたかのように見えていた人間関係に亀裂が入ったり、働くことが苦しくなってきた、と感じる人も多い。「やめる・やめない問題」というテーマで書いてもらえないかと提案いただいたのはコロナ禍直前でしたが、以前から「やめる・やめない問題」は人生における大きな問題でしたし、コロナ禍によって問題はより複雑化してきたような気がしています。
コロナ禍で「やめる・やめない問題」がより複雑化した、というのは、具体的にどういうところでしょうか。
下園さん 私は、コロナ禍が始まって1年が過ぎた今、現時点で私たちが直面しているのは「自覚しにくいストレス」だと思っています。

無意識のうちの緊張感や警戒心によるストレスが予想外に長引いています。また、この期間に大きく変わった生活環境や人間関係に適応するために頑張り続け、私たちは自分たちが思う以上に、消耗しています。人は、徐々に進むストレスには気づきにくく、そのダメージは低温やけどのように、傷が深く、治りにくくなります。この、気づきにくいストレスによる疲労感、その疲労によるイライラが、「やめる・やめない問題」のトリガーになっていると感じています。
この本を執筆するにあたり、「やめる・やめない問題」について思考を整理するうち、「このテーマは私が思っていた以上に人生の一大事だ」と思うようになりました。タイトルこそ「リセット」という言葉が使われていますが、ゲームでリセットボタンを押すように簡単ではないし、ボタンを押した後、まっさらになれるわけでもありません。「やめる・やめない問題」という現実の厳しさをしっかり見据えた本にしたいと思いました。結果的には、「人間」というものについて深く掘り下げることができたのではないかと感じています。
「やめる・やめない問題」に直面すると、思考が進みにくくなるように感じます。本音は「やめたい」であっても、世の中の先行きは不透明で、「じゃあ次、どうする?」と思うと不安が大きくなり身動きができなくなる。悩みすぎて、何がなんだか分からなくなってしまう、という人は多そうです。
下園さん そう。決断すれば解決するものでもない、やめても、やめなくても楽な道はない、というのが「やめる・やめない問題」の難しさだと私は思っています。

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