再発の多い「肝臓がん」、リスクが高いのはどんな人?
第3回 肝炎ウイルスが消えても油断禁物、肝臓がんになる可能性は残る
田中美香=医療ジャーナリスト
日本人に4番目に多いがんであり、死亡率では5位を占める、肝臓がん。肝臓がんといえば、かつてはC型・B型肝炎にかかった肝臓から発生するものが大半を占めていた。だが近年は、画期的な治療薬の登場によってこれらの肝炎が減り、そこから肝臓がんになる人も減ってきた。代わって専門医が注視するのが、日本人に急増している脂肪肝から発生してくる肝臓がんだ。これらの肝臓がんにはどんな性質があり、どう見つけて治療するのか。現状を解説しよう。
『忍び寄る肝臓の危機』 特集の内容
- 第1回「γ-GTP」だけ見ていては見逃される、肝臓の危険なサインとは?
- 第2回脂肪肝の「危険な兆候」を早めにキャッチする方法
- 第3回再発の多い「肝臓がん」、リスクが高いのはどんな人?←今回
いま問題になっているのは、脂肪肝から起こる「肝臓がん」
肝臓は、食べ物に含まれる栄養素を合成・分解し、消化を助け、不要な物質の解毒・排泄を促すなど、幅広い役割を担っている。しかし、沈黙の臓器と呼ばれるだけあって、異変が生じても症状がないまま病気が進んでしまう(第1回参照)。第2回で取り上げた「脂肪肝」もその1つだ。気づかないうちに肝臓に脂肪がたまって、そこに炎症が起こる状態が続くと(慢性肝炎*1)肝硬変や肝臓がん(*2)を発症して後戻りできなくなることがある。
*2 肝臓がんは、肝臓にできる「原発性肝臓がん」と、他の臓器から転移した「転移性肝臓がん」があるが、今回は原発性肝臓がんについて解説する。なお、一般的に肝臓がんとは、原発性肝臓がんの9割超を占める「肝細胞がん」を指す。
今回のテーマ、「肝臓がん」は、日本人のがん罹患率の4位、死亡率の5位を占める、重要ながんだ(下図)。肝臓がんはかつて、C型肝炎やB型肝炎といった、慢性のウイルス性肝炎が原因となって発生するケースが大半を占めていた。肝臓の炎症が長く続くことによって肝臓の細胞がダメージを受け、そこからがんが発生してしまうのだ。だが最近は、ウイルス性肝炎の治療が進歩したことで、これらの肝炎から肝臓がんへと進む人は徐々に減り、肝臓がんの罹患率も減少してきた(下図-左)。

しかし、安心するのは早計だ。その一方でじわじわと増えてきているのが、一部の脂肪肝から起こる肝臓がんだ。脂肪肝自体が急増している今、脂肪肝から発症した肝臓がんが今後さらに増加し、肝臓がんの罹患率が再び上昇曲線を描く可能性を専門医は危惧している。また、後述する理由により、ウイルス性の慢性肝炎から発生する肝臓がんも、簡単になくなるとは考えられていない。
肝臓がんの進行は比較的ゆっくりだが、難点は再発が多いこと
がんは、その種類によって、進行が速いもの、遅いもの、治療によって治りやすいもの、治りにくいものがある。がんの存在に気づいたときにはすでに進行しているのではないか、別の臓器に転移することはないか…こうした心配がついて回るが、肝臓がんの場合はどうなのだろうか。肝臓がんの特徴をまとめた、下表を見てみよう。
肝臓がんの特徴
比較的ゆっくり進行する
他臓器のがんと比べると、進行するスピードはあまり速くない
再発しやすい
治療後1年以内に25~30%、5年で70~80%は再発する
他の臓器への転移は少ない
肝臓の中での再発は多いが、他臓器へ転移することは少ない
単発ではなく複数のがんができやすい
複数のがんが肝臓の中で同時にできることが多い(特にC型肝炎から起こる場合)