「γ-GTP」だけ見ていては見逃される、肝臓の危険なサインとは?
第1回 お酒を飲まない人にも忍び寄る 肝臓の異変をキャッチする方法
田中美香=医療ジャーナリスト
肝臓の病気というと、「お酒をたくさん飲む人がなるもの」というイメージが強いかもしれない。だが実際は、お酒を飲む人も飲まない人も、太っている人もそうでない人も、知らず知らずのうちに肝臓を傷め、将来肝硬変や肝がんになるリスクを抱えている。肝臓の異変を早くキャッチするためには、健康診断の血液検査の値に気を配り、腹部エコー(超音波)検査も定期的に受けておくことが重要だ。本特集では、すべての人が知っておきたい肝臓に関する検査値の読み方や、近年その重要性が指摘されている脂肪肝、そして命に関わる肝臓がんなどについての最新情報をお届けする。
『忍び寄る肝臓の危機』 特集の内容
- 第1回「γ-GTP」だけ見ていては見逃される、肝臓の危険なサインとは?←今回
- 第2回脂肪肝の「危険な兆候」を早めにキャッチする方法
- 第3回再発の多い「肝臓がん」、リスクが高いのはどんな人?
肝臓を守るなら、「γ-GTPだけ見ておけばいい」と思ってはならない
コロナ禍で居酒屋などに集まってお酒を楽しむ機会は激減し、代わって「宅飲み」が定着してきた。宅飲みでは終電を気にしなくていいため、つい飲み過ぎてしまうこともあるだろう。翌朝、二日酔いになってもテレワークだから乗り切れた、という人もいるかもしれない。
新型コロナウイルスへの感染を恐れて健康診断を先延ばしにする人が多い今、例年以上に心配なのが、「次の健康診断でどんな結果が出るか」だ。酒好きの人にとっては、特に不安なのが肝臓に関する数値、「γ-GTP」ではないだろうか。

通常、健診結果の「肝機能」の欄に表示されているのは、γ-GTPと、AST、ALTの3つだ。だが、これらの値が実のところ何を意味するのか、具体的に知っている人は果たしてどのくらいいるだろうか。「お酒を飲むからγ-GTPだけは注意している」という人はいても、「ASTやALTはよく分からない」という人が多数派ではないだろうか?
「特にお酒を飲む人は、γ-GTPばかり気にしていますね。でも、肝機能が下がっているかどうかを知るには、実はAST・ALTも同じくらい重要なんです」。肝臓病に詳しい、新百合ヶ丘総合病院消化器・肝臓病研究所の所長、井廻道夫(いまわりみちお)さんはそう指摘する。
一方で、そもそも肝機能の検査値に関心がなく、「自分はお酒をそんなに飲まないから肝臓の病気は関係ない」と思っている人もいるだろう。だが、近年、肝臓を専門とする医師の間で、「お酒も飲まないのに脂肪肝になり、気づかぬうちに肝臓の線維化が進行、肝硬変、肝がんへとたどる」というケースの増加が問題視されているのをご存じだろうか。肝臓の病気は酒飲みだけに限った話ではないのだ。
井廻さんは、日本肝臓学会の理事長を務めた経歴を持ち、肝臓病診療の第一線で尽力してきたスペシャリストだ。井廻さんによると、早い段階で肝機能の低下に気づくためには、健康診断の血液検査で肝機能の値の推移を見ることが極めて重要だという。さらに、数値を見るときはγ-GTP以外の検査値も気にしておくこと。「肝臓といえばγ-GTP」と考えがちだが、他にも見るべき項目はあるのだ。
肝臓についてよくある誤解 その1
肝臓のダメージが進んでいるかどうかを知るには、γ-GTPだけ見ておけば大丈夫
また、前述したように、お酒を飲まない人も肝臓の病気と決して無縁ではない。肝臓に脂肪が沈着する「脂肪肝」は、お酒を飲まない人、やせている人にも起こり得る。
肝臓についてよくある誤解 その2
お酒を飲まない人は肝臓病にならない
脂肪肝になるのは太っている人だけである
肝臓は、解毒や代謝など人間の生命の維持に欠かせない重要な臓器だ。そんな肝臓が「肝硬変」、さらに「肝がん」といった重篤な病気になると、いよいよ命の危機だ。だが、「沈黙の臓器」と呼ばれる肝臓は、病気が少し進んだくらいでは肝臓病特有の症状を出さない。「私はまだ大丈夫」だと放置していると、ある日突然、皮膚や白目が黄ばむ「黄疸(おうだん、*1)」などの症状が現れ、取り返しのつかない状態になっている。それが肝臓の病気の恐ろしいところだ(下図)。

では、そうなる前に肝機能の異常をキャッチするには、基本的な検査項目をどう見ればいいのだろうか? γ-GTP、AST、ALTの数値がどのくらい悪くなると、いよいよまずいことになるのだろうか? そして肝臓を損なう病気の代表、「肝炎」や「肝がん」に注意するべきはどんな人なのか?――本特集では、お酒を飲む人はもちろん、飲まない人にもリスクのある肝臓病について、井廻さんに詳しく聞いていこう。