死亡率1位の肺がん、早期発見は胸部レントゲンだけでは不十分?
第3回 肺がん・膵臓がん・前立腺がん・子宮頸がん・乳がん・肝臓がん編
梅方久仁子=ライター
コロナ禍で受診を先延ばしにする人が増えているという、がん検診。だが、日本人の死因の1位を占めるがんで命を落とさないためには、検診の機会を逃さず上手に利用していくことが不可欠だ。がんの早期発見に関する素朴な疑問を解決していく本特集。第3回となる今回は、「肺がん」「膵臓がん」「前立腺がん」「子宮頸がん」「乳がん」「肝臓がん」の検診や早期発見について、引き続き近藤しんたろうクリニック院長の近藤慎太郎さんに聞いていく。
『がんの早期発見 素朴な疑問に答える』 特集の内容
- 第1回がん検診、何をどう受ければいい? 素朴な疑問を一挙解決!
- 第2回胃がん検診、「バリウムより内視鏡」の最大の理由とは
- 第3回死亡率1位の肺がん、早期発見は胸部レントゲンだけでは不十分?←今回
今回の素朴な疑問一覧
第3回 肺がん・膵臓がん・前立腺がん・子宮頸がん・乳がん・肝臓がん編
1
肺がんの早期発見は、胸部X線検査だけでは不十分?
2
膵臓がんはどうすれば早期発見できるの?
3
前立腺がんのPSA検査は受けたほうがよい?
4
子宮頸がん:HPVの感染の有無は調べたほうがいいの?
5
HPVワクチンを受けていても子宮頸がん検診は必要?
6
乳がんはマンモグラフィで「精密検査の必要なし」なら安心?
7
肝臓がんは、肝炎ウイルスに感染していなければ心配いらない?
私たちの健康寿命を脅かす「がん」をいかに早期に発見し、治療するか。そのカギとなるのは、それぞれのがんの死亡率を減らすエビデンスが確立している自治体のがん検診を上手に利用していくことだ。その上で、自分にとって必要な検査を人間ドックなどで取り入れていくことが大切となる。
前回は、食べ物の通り道である消化管に発生する、胃がん、食道がん、大腸がんの早期発見についての素朴な疑問を、がん検診についての著書もある近藤しんたろうクリニック院長の近藤慎太郎さんに解説してもらった。今回は、肺がん、膵臓がん、前立腺がん、子宮頸がん、乳がん、肝臓がんの早期発見についての素朴な疑問を解決していこう。
素朴な疑問 1
Q | 肺がんの早期発見は、胸部X線検査だけでは不十分? |
A | 早期発見には胸部CTが向いています。ノンスモーカーでもリスクはあります |
肺がんは現在、日本で一番死亡数の多いがんだ。肺がんというと喫煙者がなる病気というイメージがあるが、タバコを吸わず、受動喫煙もない人でも、肺がんにかかることはある。
自治体の肺がん検診で行われている検査は胸部X線(胸部レントゲン)撮影で、肺がんリスクの高い喫煙者(*1)の場合は、これに加えて痰の検査(痰の中の細胞を調べる喀痰〔かくたん〕細胞診)も受ける。
胸部X線撮影は、機械の前に立って写真を1枚撮るだけの非常に簡単な検査だが、この検査を受けていれば、肺がんの心配はいらないのだろうか。

「肺がんのリスクが高い喫煙者については、胸部X線撮影と痰の検査を行うことで肺がんの死亡率を下げられることは明らかになっています。しかし、非喫煙者については、胸部X線撮影で肺がんの死亡率が下がるかどうかは、実は分かっていません」と近藤さんは明かす。「胸部X線撮影は、もともとは結核を見つけるために健康診断に取り入れられたもので、肺がん検診としてはそれほど精密な検査ではないのです」(近藤さん)
例えば、胸部X線撮影では、肺の中心部(肺門部;気管が左右の気管支に分かれて肺に入っていく部分)は心臓などほかの臓器と重なってしまって、病変があっても見つけにくい。肺の奥(末梢)にできるがんも、ごく早期の小さいものは、やはり胸部X線で見つけることは難しいという。しかも、末梢にできるがんは、肺門部のがんに比べて痰などの自覚症状もあまりないため、発見が遅れがちだ。
自治体のがん検診では通常、胸部X線写真は正面から1枚撮るだけだが、人間ドックでは、正面と側面の2方向から撮影することがある。2方向から撮ることで他の臓器の陰になる部分が減り、情報量が増えるので、理論上はがんを見つけやすくなるはずだ。しかし、近藤さんによると、2方向からの撮影が肺がんの死亡率を減らすという明確なエビデンスはないという。