男性ホルモン低下が認知症や生活習慣病のリスクに そのメカニズムとは?
第2回 ストレスがあるとテストステロンが低下し、病気のリスクが上がる!
伊藤和弘=ライター
コロナ禍によって男性ホルモンが低下し、男性更年期障害の症状が表れている人が増えているという。男性ホルモン低下は、不調をもたらすだけでなく、生活習慣病や動脈硬化、認知症などのリスクも高めてしまい、寿命にも影響を与えるのだが、果たしてこれはどのような仕組みで起きるのだろうか? この分野の第一人者である、順天堂大学大学院医学研究科・泌尿器外科学教授で日本Men’s Health医学会理事長も務める堀江重郎さんに解説していただこう。
「男性ホルモン」のパワー 特集の内容
- 第1回コロナ禍で男性ホルモンが低下? 名医が教えるセルフチェック法とは
- 第2回男性ホルモン低下が認知症や生活習慣病のリスクに そのメカニズムとは?←今回
- 第3回名医が勧める「男性ホルモンを上げる食事」はズバリこれ!
なぜ男性ホルモンの低下で病気のリスクが上がる?

前回述べたように、コロナ禍のテレワークや外出自粛によって、人と会ったり体を動かしたりする機会が大きく減少したことで、「男性ホルモンの分泌が減り、男性更年期障害の症状が出た中高年男性が増えているように思います」と順天堂大学大学院医学研究科・泌尿器外科学教授で日本Men’s Health医学会理事長も務める堀江重郎さんは指摘する。
主な男性ホルモンであるテストステロンが減ると、筋力低下、関節痛、ほてり、頻尿、不眠、意欲の衰え、うつ症状など、女性の更年期障害と同じように心身に様々な不調が起こってくる。
一般に加齢によってテストステロンの分泌量は減っていくが、その個人差は大きく、80歳になってもあまり衰えない人もいるという。逆に言えば、「40歳を過ぎた男性なら、いつ男性更年期障害を発症してもおかしくありません」と堀江さん。医学的にはLOH症候群(加齢男性性腺機能低下症候群)と呼ばれる病気だ。
テストステロンの働きは、性機能を正常に保ち、筋肉や骨を強くするだけではない。動脈硬化を防ぎ、認知機能を高める作用もある。さらに、性格や社会性などメンタル面にも大きな影響を与えていることが分かってきた。
「テストステロンは社会の中で自分をアピールするのに欠かせない“社会性のホルモン”。難しいことに挑むチャレンジ精神、他人や社会に貢献しようとする気持ち、公平さや正義を求める気持ちなどが、テストステロンによって強くなります。逆に、人と会わないでいることから分泌が低下する恐れがあります」(堀江さん)
したがってテストステロンが少なくなると、チャレンジ精神や競争心が衰え、意欲が低下してしまう。テストステロンが低い人はうつ病になりやすいという報告もあり(*1)、実際にうつ病を発症することも珍しくない。後述するが、生活習慣病や心臓病のリスクが高くなるせいか、テストステロンが低い男性は寿命が短い傾向にあるという研究結果もある(*2)。
しかしテストステロンが低下するだけで、なぜこのような症状が起き、病気のリスクが上がってしまうのだろう? そもそもホルモンとはどういうもので、どのような仕組みで体に作用するのか? 今回の記事では、そういった基本から改めて確認していこう。
*2 Arch Intern Med. 2006 ;166(15):1660-5
微量でもホルモンが効果を発揮するワケ
「ホルモン」とはよく聞く言葉だが、どのようなものか具体的に知っている人は、それほど多くはないだろう。ホルモンとは、体内の「内分泌器官」が作って血液中に放出する「情報伝達物質」のこと。これが血中を流れてターゲットとなる細胞にピンポイントで到達し、ごく少ない量で大きな効果を生み出す。
腎臓の上に乗っている「副腎」という臓器から分泌される「アドレナリン」が1900年に発見されて以来、これまでに実に多くのホルモンが見つかってきた。現在確認されているホルモンは100種類以上あり、その原料から大きく3種類に分類できる。
ホルモンは大きく3種類
- ステロイドホルモン(コレステロールが原料)…… コルチゾール(ストレスホルモン)、テストステロンなど
- ペプチドホルモン(複数のアミノ酸がつながったペプチドでできている)…… インスリン、成長ホルモンなど
- アミン型ホルモン(アミノ酸から酵素によって合成される)…… ドーパミン、アドレナリン、メラトニンなど
このように、今回のターゲットであるテストステロンは、コレステロールが原料となるステロイドホルモンに分類される。