体が硬い人は血管も硬い!「自重ストレッチ」で血管若返り、腰痛・肩こり予防
第1回 体重を使って楽に伸ばす「自重ストレッチ」はここがすごい
伊藤和弘=ライター
筋肉を柔らかくし、関節の動きを滑らかにして可動域を広げる効果のあるストレッチ。読者の方々の中には「なんだか面倒」「別に体が硬くても困らないし…」と思っている人もいるかもしれない。だが、体が硬いと、肩や腰の痛みやコリだけでなく、血管が硬くなり、動脈硬化を招く恐れもあることをご存じだろうか? 本特集でご紹介する「自重ストレッチ」は、筋力を使って“伸ばす”代わりに、重力を使って“伸ばされる”ストレッチ。痛みがなく、気持ちがいいだけでなく、腰痛・肩こりの予防や、血管の老化を防ぐといった多面的な効果も期待できる。その秘密を早速解説していこう。
重力で楽に“伸ばされる” !「自重ストレッチ」で体をほぐす 特集の内容
- 第1回体が硬い人は血管も硬い!「自重ストレッチ」で血管若返り、腰痛・肩こり予防←今回
- 第2回体重をかけて30秒キープ! 5つの「自重ストレッチ」で腰痛予防
- 第3回つらい肩こりを解消する4つの自重ストレッチ 「しっかり30秒」がカギ
「180度の開脚」はできなくてもいいが「体が硬くなる」ことは問題
いつまでもしっかりした足腰を保ち、元気に長生きするためには、日ごろの運動習慣が欠かせない。運動は、脂肪を燃焼させ、全身の血流を改善し、筋肉量を増やして足腰の衰えを防ぐことは周知の事実だ。さらには、定期的な運動には血圧や血糖値を下げる効果があることも分かっている。
実際、運動習慣がある人は病気になりにくく、寿命が長いことを示すエビデンスはいくつもある。例えば18~100歳の約5万5000人を平均15年間追跡した研究によれば、「1日5~10分のジョギング」をする人たちは、まったく運動しない人たちより死亡率が28%も低かった(*1)。
運動は大きく、レジスタンス運動、有酸素運動、ストレッチの3つに分けられる。
(1)レジスタンス運動
筋トレに代表される、筋肉に比較的大きな負荷を繰り返しかける運動。無酸素運動とも言う
(2)有酸素運動
ジョギングやウォーキング、水泳など、比較的軽い負荷で酸素を取り込みながら長時間行う運動
(3)ストレッチ
筋肉や関節を伸ばす運動
筋トレには筋肉量を増やし、筋力を強化し、基礎代謝を高める作用がある。有酸素運動には、体脂肪を燃やして心肺機能を高め、血管を柔らかくするなどの作用がある。これらに比べると、ストレッチはどうしても地味で、軽視されがちだ。
ストレッチをしても心拍数は上がらないし、なかなか汗もかかない。いくらやっても筋肉が増えるわけではないし、体脂肪もたいして減らない。体が柔らかくなる効果はあっても、健康に対するメリットは筋トレや有酸素運動のほうがずっと高いように感じられる。特に男性諸氏は「体が硬くたって別に問題はない。脚が180度開かなくても何も困らない」と思っている方も多いのではないだろうか。
だが、そこには大きな誤解がある。
パーソナルトレーナーでCALADA LAB.(カラダラボ)代表の比嘉一雄さんは、こう話す。「確かに、生きていく上で、180度開脚ができるほど体を柔らかくする必要はありません。ただ問題は、体が『柔らかくないこと』ではなく、『硬くなること』なんです。体が硬くなることは、健康上のさまざまな問題につながります」
健康上の問題とは、具体的にはどういうことなのか。
「柔軟性は、筋力や持久力と同じく、体力を構成する重要な要素の1つです。体が硬くなるということは、つまり、筋肉が硬くなって関節の可動域が狭くなるということを意味します。そうなると、体の動きに左右差が生じてひざや腰を痛めたり、姿勢のゆがみが内臓に負担をかけたり、血行が悪くなって肩こりや腰痛が起こる、といったさまざまな不調が起きてきます」(比嘉さん)

体が硬い人は血管も硬く、動脈硬化が進んでいるという報告もある(*2)。立命館大学スポーツ健康科学部の家光素行教授らが、日本の成人526人を対象に行った研究では、中高年(40~83歳)の体の硬い人では、体が柔らかい人に比べて、全身の動脈硬化の進行度合いを示すPWV(Pulse Wave Velocity=脈波伝播速度)の数値が有意に高かった(図1)(関連記事はこちら)。

こうした問題の解消に役立つのがストレッチだ。ストレッチによって筋肉を柔らかくし、関節の可動域を広げれば、ひざや肩、腰の痛みやケガ、コリを予防することができる。さらには、血糖値を下げ、動脈硬化を改善する効果もあることも分かってきた。
*2 Am J Physiol Heart Circ Physiol. 2009;297(4):H1314-8.
この記事の概要
