姿勢を正すだけでも血圧改善! 高血圧を防ぐ「王様座り」のススメ
第4回 座りっぱなしに崩れた姿勢…血圧を上げる生活習慣を排除しよう
田中美香=医療ジャーナリスト
新型コロナウイルスの影響で、自宅で過ごす時間が長くなってから約1年。パソコン・スマートフォン漬けで座りっぱなしの生活に、ゴロ寝の正月も加わり、「いよいよ体に悪い」と危機感を抱く人も出てくる時期ではないだろうか。崩れた姿勢で座り続けることは、実は血圧にとっても良いことではない。一体どんな姿勢が血圧を上げ、どう変えれば血圧を上げずに済むのか? 第2回、第3回で解説した運動や食事と併せて日常生活に取り入れたい、血圧を上がりにくくする姿勢のポイントを押さえておこう。
「高血圧」改善で、健康寿命を延ばす 特集の内容
- 第1回4300万人が患う国民病「高血圧」 数ある病気の中でも「別格」な理由
- 第2回高血圧の人は筋トレNG? どんな運動をすれば血圧を下げるのに有効か
- 第3回「血圧は下げたい、でも減塩は…」 そんな人にお勧めの「塩出し食」とは
- 第4回姿勢を正すだけでも血圧改善! 高血圧を防ぐ「王様座り」のススメ←今回
姿勢に気をつけるだけでも血圧は変わる!
新型コロナウイルスの流行が収まらない中、新しい働き方としてテレワークが定着してきた。テレワークには、今まで通勤に費やしていた時間を有効活用できる、育児や介護と両立しやすいなど、多大なメリットがある。一方で、デメリットがあることも否めない。その1つが、悪い姿勢で座りっぱなしが続くことによる、健康への悪影響だ。
テレワーク中は、オフィスでの勤務時と違い、会議や打ち合わせで席を立つことも少なく、どうしても座りっぱなしになりがち。パソコンやスマートフォンの操作など仕事に没頭して、姿勢が崩れたまま長い時間を過ごしている人も多いだろう。東京女子医科大学高血圧・内分泌内科教授の市原淳弘さんによると、このような生活が続くと血圧にも悪い影響が出てくるという。
「スマートフォンを使うとき、首を折り曲げるように画面をのぞき込み、猫背の体勢が何時間も続く、ということはないでしょうか。テレワークでパソコンに向かいっぱなしの人も同様です。通勤がなくなり、朝から晩まで同じ場所でじっと座って仕事をしていれば、血圧が上がりやすくなります」(市原さん)
デスクワーク中心の仕事をしている人にとって、座る時間をゼロにするのはなかなか難しいだろう。しかし、座っているときの姿勢を変える、時には立って仕事をしてみるなどの工夫は可能だ。
「一瞬姿勢を正すだけで劇的に効果があるとは言えませんが、姿勢を変え、座りっぱなしの生活を改善することで血圧に変化が表れる可能性は大いにあります。1年間、悪い姿勢でパソコン・スマホ漬けの生活を送った人と、姿勢に注意して生活した人とでは、1年後の血圧は絶対に変わってくると思います」(市原さん)
では、悪い姿勢が血圧にどう影響するのか、そしてどんな姿勢が血圧を上がりにくくするのか、具体的に見ていこう。
崩れた「座り姿勢」は、全身のあちこちで血圧を上げる
市原さんが指摘する、血圧を上げる姿勢の1つ目のポイントは「首」だ(下図)。首を前方に傾けてパソコンなどを見続けるなど、本来の骨格とは異なる不自然な姿勢をキープすると、首周辺の筋肉が緊張し、自律神経の1つ、交感神経が刺激されてしまう。
交感神経は、興奮や緊張を感じたときなど、活動性が高い状況で優位になる神経。交感神経が刺激されれば、血圧が上がるという特性がある。一方、交感神経と対をなす副交感神経は、それとは反対に心身をリラックスさせる方向に働く。
また、首の付け根にある「延髄(えんずい)」は、血圧の調節機能を担う司令塔といえる場所。うつむき姿勢で首回りの緊張が続き、延髄周辺の血流が悪くなれば、血圧が上がりやすくなる。血圧を下げたいなら、首が凝り固まるようなうつむき姿勢は避けたほうがいいということだ。

「猫背」も要注意だ。猫背の姿勢は肺を圧迫するため、呼吸が浅く、早くなってしまう。すると、ここでも交感神経が優位になって血圧が上昇することになる。

上体を前傾させる姿勢や、脚組みも、股関節を通る血管を圧迫しやすいので控えたい。股関節には、下半身の静脈血を集めて心臓へと送り返す太い静脈が走っている。そのため、お腹と太ももが鋭角になる前傾姿勢で座り続けると、静脈が圧迫されて心臓に戻る血流が悪くなるのだ。同様に、脚を組む姿勢も静脈を圧迫し、下半身から心臓に戻る血流を妨げてしまう。
下半身の血液が心臓に戻りにくくなると、心臓はその状態を察知して、「血液が足りないから、拍動をもっと強めて全身に血液を送らなければ!」と勘違いする。その結果、心臓から送り出される血液が増え、血圧が上がっていくわけだ。市原さんによると、「高血圧の人が脚を組むと、最大10mmHgも血圧が上がるとの報告もある」という(*1)。