高血圧の人は筋トレNG? どんな運動をすれば血圧を下げるのに有効か
第2回 「体内の一酸化窒素を増やす」と「きつくない」がポイント
田中美香=医療ジャーナリスト
高血圧対策として多くの人が真っ先に取り組むのは、「食事で塩分を控えること」だと思うが、運動にも血圧を下げる効果がある。ただし、ここで注意が必要だ。やり方によっては、体の中で「一酸化窒素(NO)」という成分を増やし、血管を広げて血圧を下げる効果が得られる一方で、中には血圧を上げる運動もあるため、やみくもに体を動かせばいいわけではない。そんな運動のポイントについて、第1回に引き続き、東京女子医科大学高血圧・内分泌内科教授の市原淳弘さんに伺っていく。
「高血圧」改善で、健康寿命を延ばす 特集の内容
- 第1回4300万人が患う国民病「高血圧」 数ある病気の中でも「別格」な理由
- 第2回高血圧の人は筋トレNG? どんな運動をすれば血圧を下げるのに有効か←今回
- 第3回「血圧は下げたい、でも減塩は…」 そんな人にお勧めの「塩出し食」とは
- 第4回姿勢を正すだけでも血圧改善! 高血圧を防ぐ「王様座り」のススメ
「血圧リセット術」によって薬いらずになることも不可能ではない
中高年になると数値が上がってくる人も多い血圧や血糖値、コレステロール値。生活習慣病に関係するこれらの指標の中でも「別格」とされ、突然死にもつながりかねない病気の代表が「高血圧」だ。高血圧で動脈硬化が進んだとしても、引き返せなくなる前に血圧を適正値に戻せば、最悪の事態を回避することにつながる(第1回参照)。
しかし、長い時間をかけて高くなった血圧を下げ、それを維持し続けるのは簡単なことではない。高血圧患者の中には、「どのみち薬は一生続けるんだから、最初から薬に頼ればいい」と思う人も少なくないようだ。もちろん、薬によって血圧を下げておけば、心筋梗塞や脳卒中などを起こすリスクを下げることはできる。「生活習慣を改善できない人など、長期間薬を飲み続けるのも1つの方法です」と東京女子医科大学高血圧・内分泌内科教授の市原淳弘さんは話す。
だが一方で、「薬を一生飲みたくない」という人もいるだろう。そうした人のほとんどが、「高血圧の薬は飲み始めると一生やめられない」と思っているため、治療を受けること自体を拒みがちだ。しかし、市原さんによると、「高血圧の薬は一生飲まねばならない」と考えるのはよくある誤解の1つだという。実際は、高血圧と診断されて治療薬を使っている人でも、努力次第で薬を減らすことは可能で、中には薬いらずになる人も存在する。
血圧を適正値にもっていくために市原さんが勧めるのは、
- (1)血管の柔軟性を取り戻す物質、一酸化窒素(NO)を増やす「運動」
- (2)塩分を体外に出す「塩出し食」
- (3)血圧を上がりにくくする「姿勢」
などの方法だ。「私はこれらの対策を、『血圧リセット術』と呼んで患者さんに勧めています」(市原さん)
市原さんお勧めの血圧リセット術のうち、今回は1つ目の「運動」の秘訣を解説しよう。

血圧を下げるために第一に取り組むべき対策として、多くの人が真っ先に思い浮かべるのは、「食事で塩分を控えること」ではないだろうか。もちろん減塩は高血圧を改善する上で要となる対策であり、ぜひ実践していただきたいことだ。だが、今回、食事よりも先に運動について紹介するのには理由がある。運動をすれば、市原さんが注目する「血圧リセットの救世主ともいえる成分」を体の中で増やすことができるからだ。
「血圧リセットのカギとなるのが、『一酸化窒素(NO エヌオー)』という成分です。NOには血管を広げる作用があるため、血管の中でたくさん作れば、血圧を下げることができます。そのNOを増やすために最も効果があるのが運動なのです」(市原さん)
一酸化窒素(NO)は、窒素酸化物の一種。窒素酸化物の中には光化学スモッグや酸性雨の成因にも関連する物質もあるため何やら体に悪そうなイメージもあるが、実はNOこそが血管の柔軟性を取り戻し、血圧を下げる物質なのだという。
運動といえば、「年をとると筋肉が落ちるから筋トレをするべき」と思う人もいるかもしれない。だが、血圧が高めの人にとって、激しい筋トレはかえって血圧を上げる原因になってしまう。運動は健康寿命を延ばす上で大切な要素だが、やみくもに運動すればいいというものではないのだ。
では、どんな運動がNOという物質を増やし、血圧を下げるのだろうか。高血圧に効くというNOの特性を知り、NOを効果的に増やす運動のポイントについて具体的に見ていこう。
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