4300万人が患う国民病「高血圧」 数ある病気の中でも「別格」な理由
第1回 「血圧が高め」と言われたらすぐに生活改善に取り組もう
田中美香=医療ジャーナリスト
日本に4300万人の患者がいると推計される「高血圧」。脳卒中や心疾患など、命にかかわるさまざまな病気を引き起こすことが広く知られているにもかかわらず、生活を変える煩わしさもあってか、そのまま放置している人や、対策が長続きせずうまく下げられずにいる人も多い。そこで本特集では、なぜ血圧を下げる必要があるのか?という原点に立ち返り、今年こそ血圧の管理を成功に導くための、手軽で効果的な「血圧リセット術」について、運動・食事・姿勢という3つの視点から解説していく。
「高血圧」改善で、健康寿命を延ばす 特集の内容
- 第1回4300万人が患う国民病「高血圧」 数ある病気の中でも「別格」な理由←今回
- 第2回高血圧の人は筋トレNG? どんな運動をすれば血圧を下げるのに有効か
- 第3回「血圧は下げたい、でも減塩は…」 そんな人にお勧めの「塩出し食」とは
- 第4回姿勢を正すだけでも血圧改善! 高血圧を防ぐ「王様座り」のススメ
生活習慣病の中でも、「高血圧」は別格で扱うべき重大な病気である
2021年の正月を、「新型コロナウイルスに感染しませんように」「感染したとしても重症になりませんように」、こんな思いで過ごしている人も多いのではないだろうか。例年であれば、健康に関する願いとして、「今年こそ体重を減らしたい」「血圧やコレステロール値を下げたい」など、生活習慣病の改善を目標に掲げる人が多いと思うが、今年は様子がかなり違っていることだろう。
もちろん、新型コロナに感染せずに過ごすことは重要だ。しかし、東京女子医科大学高血圧・内分泌内科教授の市原淳弘さんは、「新型コロナウイルス感染を避けることに目が向きがちな今、生活習慣病など、持病への対処が後回しになっている人が増えています。これは大きな問題です」と指摘する。
市原さんは年間7500人の高血圧患者を診る、高血圧診療のエキスパート。新型コロナの流行が国内で始まった2020年前半、市原さんが担当する高血圧患者の中には、ウイルスへの感染を恐れて受診を控え、薬が切れたまま数カ月を過ごした人が少なからずいた。その人たちが秋頃になって久しぶりに受診したとき、ほぼ全員、高血圧が悪化していたという。「生活習慣病の中でも、特に高血圧は『別格』なので放っておくのは非常に危険です」と市原さんは話す。
高血圧、糖尿病、脂質異常症などはいずれも、放っておくと脳卒中や心疾患など、命にかかわるさまざまな病気を引き起こすので、どれも早急に改善することが求められる。市原さんによると、その中でも、特に体に大きなインパクトを与えるのが高血圧だという。逆に言えば、数ある生活習慣病の中でも最優先で改善を要するのが高血圧であり、高血圧を改善すれば大きなメリットが得られるということだ。
高血圧が体に悪い、上がった血圧は下げるべき、ということは頭で分かっていても、どのくらい悪いのかについては漠然としたイメージしかない人もいるだろう。ここで、がん、心臓病、脳血管障害といった感染症を除く病気(非感染性疾患)と外傷による成人の死亡に、どんな危険因子がどのくらい影響するかを示すグラフを見てみよう(下図)。

これによると、「喫煙」に次いで多いのが、「高血圧」だ。この2つに関連した死亡者数が圧倒的に多く、喫煙と高血圧がほかの追随を許さない「2大危険因子」であることが見て取れる。読者の中には非喫煙者も少なくないと思うが、タバコを吸わない人にとって高血圧はリスクNo.1の要因なのだ。
また、直接の死因となった病名を見ると、高血圧の場合、「心血管疾患」、つまり、心筋梗塞や脳卒中などで占められている。心血管疾患への影響度合いは、高血糖やLDLコレステロール高値などを大きく引き離しており、まさに高血圧は持病の王様と言っていい存在であることがよく分かる。
そんな高血圧だが、実は下図の通り、日本では成人男性の3人に1人、成人女性の4人に1人が該当するとされている。50代以上の男性で見れば、半数以上が高血圧だ。この数字からも、高血圧対策は大多数の人にとって人ごとではない、国民的な課題といっていいだろう。

しかし、血圧が高くても通常はこれといった自覚症状はない。そのため、少々数値が上がったからといって「血圧を下げよう!」というモチベーションが高まりにくいのが難点だ。高血圧対策として「減塩」が大切だと知られているが、「とにかく塩分を控えなければ」という減塩一辺倒の対策では、「味気ない」「つらい」と感じてやりたがらない人や、やったとしてもすぐに挫折してしまう人も多い。あるいは、血圧を下げるために運動がいいと分かっていても、運動習慣がない人にとっては少しの運動もおっくうで長続きしにくいこともあるだろう。
そこで本特集では、高血圧を放置した人の末路がどうなっていくのか、なぜ血圧を適正値にキープすることが大切なのかを今一度確認しつつ、ハードな減塩食だけに頼らずに適正血圧を取り戻す「血圧リセット術」について、市原さんに指南していただこう。
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