健康で長生きしやすい体形とは? 百寿者の研究から分かったこと
第3回 やせすぎはNG! 100歳以上長生きした人は「筋肉質」が多い
伊藤和弘=ライター
健康長寿を実現するためには、ただやせていればいいわけではない。むしろ、「小太り」よりも「やせすぎ」のほうが死亡リスクが高いことを示す研究もある。慶應義塾大学医学部では、100歳以上の高齢者である「百寿者」の医学的調査が行われており、同大学医学部腎臓内分泌代謝内科の教授である伊藤裕さんは、「百寿者の男性は筋肉質の人が多く見られる」と言う。今回は、健康で長生きしやすい体形について掘り下げていこう。
良い肥満、悪い肥満 特集の内容
- 第1回太っても健康でいられる「良い肥満」の正体が最新研究で判明!
- 第2回内臓脂肪が招く病気の「ドミノ倒し」 その恐るべきメカニズム
- 第3回健康で長生きしやすい体形とは? 百寿者の研究から分かったこと←今回
太っていなければ将来ずっと健康でいられるわけではない

前回、「悪い肥満」の代表例ともいわれる「内臓脂肪型肥満」が、糖尿病や高血圧などの生活習慣病を引き起こし、やがて認知症、がん、心不全へとつながっていく、恐るべきメカニズムについて解説した。
内臓脂肪について詳しい慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科の教授である伊藤裕さんは、「腸の近くに内臓脂肪がたまると、腸内の悪玉菌を攻撃するために集まってきた免疫細胞が、間違って内臓脂肪の脂肪細胞を攻撃するようになり、炎症が起きます。その影響が全身に広がり、やがて生活習慣病につながるのです」と話す。
炎症を起こした脂肪細胞は、TNF-αやPAI-1と呼ばれる“悪玉”の生理活性物質を出すようになる。これらは、インスリンの効きを悪くしたり、動脈硬化を進めてしまう働きがあるのだ。
また、以前は糖尿病の合併症により、失明したり脚を切断したりする人も少なくなかったが、最近は治療の進歩により、そこまで至ることはまれになった。「だからといって糖尿病などの生活習慣病が怖くなくなったわけではありません。むしろ、糖尿病になると、認知症やがん、心不全などが引き起こされるリスクが高くなることが近年、明らかになり、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の対策にきちんと取り組むことが依然として重要なのです」と伊藤さんは指摘する。
内臓脂肪型肥満が健康に悪影響を及ぼすことは間違いない。だが、特定健康診査(メタボ健診)のときに「メタボです!」と指摘されなければ、それで安心なのだろうか。もっと言えば、太ってさえいなければ、将来ずっと健康でいられるのだろうか?
実は「やせていれば健康」というのは間違いだ。この特集の第1回でも述べたように、日本で行われた7つの疫学研究をまとめ、約35万人のBMI(体格指数=[体重(kg)]÷[身長(m)×身長(m)])と死亡リスクのデータを解析した研究によると、最も死亡リスクが低いのは、男性の場合BMIが25.0~26.9、女性の場合23.0~24.9の人たちだった(*1)。
注目すべきは、男性も女性も、太っている人よりも、やせている人の死亡リスクが高くなっている点だ。「BMIが低いということは、筋肉量が少ないということです。中高年で筋肉量が少ない人は、様々な健康リスクを抱えることが分かっています」(伊藤さん)
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