内臓脂肪が招く病気の「ドミノ倒し」 その恐るべきメカニズム
第2回 大きくなった脂肪細胞で起きる「炎症」の影響が全身に広がる
伊藤和弘=ライター
肥満は必ずしも“悪いもの”ではなく、健康に悪影響を及ぼさない「良い肥満」もあることが最新の研究で分かってきた。その一方で、「悪い肥満」の代表例と考えられる「メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)」は、認知症やがん、心疾患などの怖い病気へとドミノ倒しでつながっていく。今回は、慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科の教授である伊藤裕さんに、最新の研究を踏まえながら、そのドミノ倒しの恐るべきメカニズムについて解説していただこう。
良い肥満、悪い肥満 特集の内容
- 第1回太っても健康でいられる「良い肥満」の正体が最新研究で判明!
- 第2回内臓脂肪が招く病気の「ドミノ倒し」 その恐るべきメカニズム←今回
- 第3回健康で長生きしやすい体形とは? 百寿者の研究から分かったこと
「悪い肥満」の代表例、メタボはやはり怖い

前回、解説したように、肥満とは必ずしも健康に悪いものではなく、多少太っていても病気のリスクが高くない「良い肥満」があることが、最新の研究で分かってきた。欧米の12万人の肥満の人を対象にした研究では、肥満でも糖尿病や高血圧などの生活習慣病になるリスクが低い人が24%いたという(*1)。
「一人ひとりの肥満の状態をよく見ることが大切なのです」と語るのは、メタボリックシンドロームについて長年研究してきた慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科の教授である伊藤裕さんだ。
「良い肥満」とは、皮下脂肪として脂肪をため込む「皮下脂肪型肥満」であることが多い。体脂肪には、大きく分けて、皮膚の下につく皮下脂肪と、内臓の周囲につく内臓脂肪があり、このうち皮下脂肪よりも内臓脂肪のほうが血糖値や血圧を上げる原因となり、健康に悪影響を及ぼすのだ。
そして内臓脂肪量は、特定健康診査(メタボ健診)で行う腹囲の測定で簡易的にチェックでき、男性が85cm以上、女性が90cm以上のとき、内臓脂肪が目安となる「100平方cm」を超えるとされる。
「男性の場合、腹囲が85cm以上あれば、メタボである可能性がかなり高いと考えたほうがいいでしょう」と伊藤さんは言う。脂肪のつき方には性差があり、男性は内臓脂肪型肥満になりやすく、女性は皮下脂肪型肥満になりやすい、といわれている。女性ホルモンの影響で、女性のほうが皮下脂肪をためやすいからだ。

いずれにせよ、メタボ健診で「メタボの疑いあり」と指摘されたら、きちんと対策をとることが大切だ。だが、「メタボになっても症状がすぐには表れないためか、深刻に受け止めてくれない場合も多い」と伊藤さんは話す。特に、見た目を気にしなくなってきた中年男性に顕著だという。
なぜメタボが怖いのかというと、糖尿病や高血圧、動脈硬化へとつながり、認知症、がん、心疾患の原因になる可能性があるからだ。内臓脂肪の悪影響が全身に広がり、こうした怖い病気を引き起こすメカニズムは、最近になって分かってきた。今回の記事では、「悪い肥満」の代表例とも考えられるメタボが、どのような仕組みで生活習慣病を引き起こし、健康長寿を妨げてしまうのかについて掘り下げていこう。
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