太っても健康でいられる「良い肥満」の正体が最新研究で判明!
第1回 生活習慣病のリスクが上がる「悪い肥満」との決定的な違いとは?
伊藤和弘=ライター
肥満は様々な病気につながる“悪いもの”というのが常識だったが、最近は健康に悪影響を及ぼさない「良い肥満」もある、という研究が注目を集めている。どのような肥満が「良い肥満」なのか、自分が「良い肥満」かどうか判断する方法はあるのか、など気になることは多い。
一方で、「悪い肥満」の代表例ともいわれる「メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)」が、認知症やがん、心疾患など怖い病気へとつながっていくメカニズムについても明らかになってきた。こうした「良い肥満」と「悪い肥満」について詳しい、慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科の教授である伊藤裕さんに、健康長寿を実現するために、目指すべき体形について解説していただこう。
良い肥満、悪い肥満 特集の内容
- 第1回太っても健康でいられる「良い肥満」の正体が最新研究で判明!←今回
- 第2回内臓脂肪が招く病気の「ドミノ倒し」 その恐るべきメカニズム
- 第3回健康で長生きしやすい体形とは? 百寿者の研究から分かったこと

太っていても健康な「良い肥満」とは? 気になる最新研究
「肥満は健康に悪い」というのは常識だ。肥満は、糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病につながり、また、様々ながんや心疾患などの病気のリスク要因であることも知られている。健康で長生きするためには、中年期の肥満を克服し、将来の病気のリスクを低減しなければならない、というのは誰もが知るところだ。
とはいえ、年を取ると体重が増えてくる人は多い。肥満は健康に悪いと言われてダイエットや運動を始めても、「なかなか思うように体重が減らない」「脂肪を燃焼させる運動はしんどくて続かない」と挫折する人も少なくない。見た目に気を使っていた若い頃ならいざ知らず、中年になると体質的にやせにくくなることもあり、「確かに余計なぜい肉はついてきたが、それは自分だけではない。本当にやせなきゃいけないの?」と開き直りたくなる人がいるのも不思議ではない。
そんな私たちが肥満を意識させられるのは、「特定健康診査(特定健診)」、いわゆる「メタボ健診」のときだ。2008年4月からスタートしたメタボ健診は、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)に着目した健康診断で、会社勤めの人は会社の健康診断と一緒に行われることも多い(40~74歳対象)。腹囲が男性は85cm以上、女性は90cm以上あり(*1)、かつ血糖値や脂質、血圧の数値などが悪い場合にメタボのリスクが高いと判断され、医師や保健師、管理栄養士から特定保健指導を受けることになる。
メタボの判定基準
□ 腹囲…
男性85cm以上、女性90cm以上
上記に加え、以下3項目のうち2項目以上でメタボと判断
□ 血糖…
空腹時血糖が110mg/dL以上
□ 脂質…
中性脂肪が150mg/dL以上、またはHDLコレステロールが40mg/dL未満
□ 血圧…
収縮期血圧(上の血圧)が130mmHg以上、または拡張期血圧(下の血圧)が85mmHg以上
しかし最近、「メタボ健診・指導の効果は薄かった」という趣旨の論文が発表され、話題を呼んだ。京都大学医学研究科の福間真悟准教授らがメタボ健診を受けた7万4639人の日本人男性(平均52歳)のデータを解析した結果、メタボ健診や特定保健指導の効果はわずかに肥満が改善する程度で、「血圧、血糖値、LDL(悪玉)コレステロール値は改善が見られなかった」という結論を出したのだ(*2)。
そう聞いて「メタボ健診は気にしなくてもいいんだ」と思う人がいるかもしれないが、それは大きな誤解だ。メタボについて長年研究を続ける、慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科教授の伊藤裕さんは、「この報告では、保健指導の対象者のうち、実際に指導を受けたのが16%と参加率が低いこと、そして、指導の内容が効果的ではなかったことなどが原因として挙げられています。メタボ健診そのものを軽く見るのは良くないでしょう」と話す。
そして伊藤さんは、「メタボは怖いという認識を持ってください」とくぎを刺しつつも、「一方で、肥満が一律に健康に悪いのではなく、『太っているけれども健康』という人もいることが最近の研究で分かってきました。一人ひとりの肥満の状態をよく見ることが大切なのです」と驚くべきことを語った。
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