うつ病などの気分障害の患者数は全国で100万人を超えており、ビジネスパーソンにとって大きな健康問題になっています。東京のビジネス街で精神科クリニックを開業する五十嵐良雄さんは、うつで休職するビジネスパーソンを復職させる「リワークプログラム」を開始した医師。このプログラムを受けて復職した会社員の3年後の就労継続率は70%と非常に高い成果を上げています。
本連載では、五十嵐医師が多くの患者さんを診た経験から、ビジネスパーソンが陥りがちなメンタルの罠(わな)についてアドバイスをします。心も体も健康で働き続けるためのヒントを、ぜひこの記事でつかんでください。今回は、コロナ禍で広がっている「在宅勤務」を精神科医の立場から分析していただきました。
わたくしは東京・大手町のビジネス街の真ん中で精神科・メンタルヘルスのクリニックを開いていますが、コロナの影響で、大手町からサラリーマンが消えました。多くの会社がコロナ禍の拡大を受け、出社率を20~50%としたため、オフィス街はガランガラン、多くの社員は在宅勤務をしています。
初診で来る患者さんを診ていると、多かれ少なかれ、どの患者さんにもコロナの影響が多少なりとも出ています。それは、コロナにかかるかもしれないという恐怖によるものだけでなく、緊急事態宣言による自宅待機、在宅勤務、外出規制といった間接的な影響も含まれます。ということは、私たちを含めて、あらゆる人が影響を受けているということでもあります。
こころの病気は「本人と周りの環境との相互作用」で起きてくることが多く、100%環境が原因ということは非常に少ないものです。そして、さまざまな制限があっても、そのストレスの受け取り方や、影響される度合いというのは人によって違います。
なぜ、人によって影響を受ける度合いは違うのでしょう? いろいろな制限がある中でも、うまくいっている人たちをみていると、いくつかのパターンがあります。
1まず、「在宅勤務が向いている人」。私が診ている患者さんたちの中には、在宅勤務になってハッピーになった人がいます。そういった人はけっこういらっしゃいました。
在宅勤務が向いている人にはいくつかの特徴があります。
まず、彼らは自分で自分の生活をコントロールできる人たちです。朝は決まった時間に起き、いつも決まった時刻に食事を取り、昼間は仕事をする、というように、毎日同じリズムでそれを守り、規則正しい生活を週5日間できる人たちです。
さらに土日の2日間は自分の時間として充実した時間を過ごし、そうした生活を1週間、2週間、3週間…半年…ずっとできる人は、在宅勤務に向いています。
朝は決まった時刻に起きて、日光を浴びる
この「毎日のリズム」というのは、脳のメカニズムの一つである「体内時計」に関わっています。体内時計が私たちの身体に備わっているおかげで、日中は身体と心が活動状態に、夜間は休息状態に切り替わり、身体のリズムを整えて健康を保つことができるのです。この体内時計がスムーズに働くためには、毎朝、決まった時刻に起床して日光を浴びることが大切です。できれば毎日2時間ほど、窓際で過ごすとよいとされています。
一定のリズムを保って生活できる人は在宅勤務に向いていますが、反対に、生活リズムが乱れて、体内時計が乱れると、不眠や食欲低下、気力がなくなるなどのうつの症状などが現れやすくなります。
在宅勤務で健康を維持するために大切なのは、体内時計を乱さないように、朝は決まった時刻に起床して、仕事や料理、身体を動かすことなど、毎日行う行動を、おおよそ時間を決めて同じ時間に行ない、日が暮れて夜になったら、身体を休める。動物としての人間本来のリズムを守って生活することです。
