うつ病などの気分障害の患者数は全国で100万人を超えており、ビジネスパーソンにとって大きな健康問題です。この連載では、東京のビジネス街で精神科クリニックを開業する五十嵐良雄医師が、多くの患者さんを診た経験から、ビジネスパーソンが陥りがちなメンタルの罠(わな)についてアドバイスします。

(前回の内容)うつ休職を2度、3度と何度も繰り返している場合、うつの症状の裏側に別の疾患=背景疾患が隠れていることがあります。診察室での短い診察時間の中で医者がそれを見つけて診断することは難しく、正しい診断に至らぬまま、誤った治療が続いている場合が多いのが問題です。
今回は、うつ休職を繰り返す原因となる背景疾患の一つ、「双極II型(そうきょくにがた)障害」について、その特徴や治療、対応方法を具体的にお伝えしていきます。
私のクリニックには、うつによる再休職を何度も繰り返している患者さんが転院してくることが多く、調べてみると、そうした人たちの実に8割という高い割合で、うつの症状の背景に、双極II型障害があることがわかり、私自身も大変驚きました。私が診た範囲内での話ですが、再休職を繰り返している人が10人いたら8人が双極II型障害の可能性があるということです。
長い「うつ」の間に、軽い躁(そう)が現れ、これを繰り返す
双極性障害は「躁(そう)とうつを繰り返す、躁うつ病」であり、大きくわけて、双極I型(いちがた)障害と双極II型障害の2つがあります。
双極I型障害は、躁状態の時に「大声を発しながら暴れて警察沙汰になる」「大金を短時間に散財してしまう」など、明らかに常軌を逸脱した、行き過ぎた行動があるのが特徴であり、入院治療が必要ですが、周囲が気づきやすく診断することは容易です。
一方の双極II型障害は、憂うつな気分が続く「長いうつ状態」の間に、ごく短期間軽い「躁(そう)状態」が現れ、その後は長いうつ状態と短い軽躁状態を交互に繰り返す病気です。
ではなぜ、この双極II型障害がうつ休職を繰り返す原因となるのか。
その理由の一つに、双極II型障害の特徴が「躁の程度がごくごく軽い、軽躁(けいそう)だということ」があります。当の本人も「いつもより調子がいい」くらいにしか感じず、また、その期間は4日間程度か、もっと短い場合もあり、それゆえに、それが「双極II型障害」による軽躁状態だとは本人も周囲の人々も気づきません。