うつ病などの気分障害の患者数は全国で100万人を超えており、ビジネスパーソンにとって大きな健康問題です。この連載では、東京のビジネス街で精神科クリニックを開業する五十嵐良雄医師が、多くの患者さんを診た経験から、ビジネスパーソンが陥りがちなメンタルの罠(わな)についてアドバイスをします。

気分が落ち込む、食欲がない、眠れない、身体がだるい、好きだったはずの趣味を楽しいと感じられない…。これらは、いわゆる「うつの症状」の一部です。こうした症状が表れて「うつ」と診断された会社員は、会社を休職して休養し、服薬治療によって体調が回復するのを待って復職するのが一般的です。
ところが、復職後に再び、うつの症状が表れて再休職してしまう会社員も少なくありません。「やっと復職したのに、なぜまた?」。その原因や理由がわからぬまま、何度も復職と再休職を繰り返す場合も多く、本人も会社も、家族も医者も、とても困っています。
隠れているのは双極II型障害? 大人の発達障害?
そして近年、うつの再休職を繰り返す原因としてわかってきたのが、うつの症状の裏に別の疾患=背景疾患が隠れている場合があるということです。それが「双極II型(にがた)障害」と「大人の発達障害」です。
「双極II型障害」は、普通は、ごく短期間の躁(そう)状態の後に、長いうつ状態がやってきて、その気分の波を繰り返します。そしてこの短期間の躁状態は本人は躁状態だと認識できず、また、周囲の人にも気づかれにくく、うつだけを繰り返しているように見えます。
また、「発達障害」は普通、子供の頃に周囲が気づくことが多いのですが、「大人の発達障害」は大人になるまで周囲に気づかれないほど程度が軽いものの、社会に出て仕事をするようになって初めて、苦手なことにも仕事として取り組まなくてはならなくなり、うまくできずに困ったり、悩んだりした結果、うつの症状が表れて発覚する場合が多いのです。
今回から3回に分けて「うつで再休職を繰り返す場合に、背景に隠れている別の原因とその診断、治療と対応方法」について、お伝えしていきます。まず、背景にある原因を診断することの難しさについて。
これをお読みの皆さんの周囲に、うつによる再休職を繰り返している会社員の方がいらしたら、ぜひ参考にしていただければと思います。というのも、背景疾患の存在というのはご本人か、あるいは周囲の誰かが「もしかしたら?」と疑ってみない限り、見つけることが難しいものだからです。