うつ病などの気分障害の患者数は全国で100万人を超えており、ビジネスパーソンにとって大きな健康問題です。この連載では、東京のビジネス街で精神科クリニックを開業する五十嵐良雄医師が、多くの患者さんを診た経験から、ビジネスパーソンが陥りがちなメンタルの罠(わな)についてアドバイスをします。

コロナ禍で在宅勤務&リモートワークが当たり前になり、大きく働き方が変わったという人は多いでしょう。しかし、誰もがこうした「働く環境の大きな変化」に柔軟に対応できるかというと、そう簡単な話ではありません。
しかも、環境の変化を強いられている期間はすでに長期に及んでいます。当初はどうにか対応してきた人たちの中にも、限界を超えて、うまく対応できなくなる人も現れてきています。
環境の変化にうまく適応できなくなると、身体や気持ち、日常にどういうこころの症状が表れるかというと、
- 食欲が落ちる
- よく眠れない日が増える
- 気分がゆううつになることが増える
- 仕事がはかどらない、能率が落ちる
といった症状が出てきます。
これらは、いわゆる「うつ」の症状です。そして、こうした症状のほかに、「以前は楽しいと感じていたことを、楽しいと感じられなくなる」という症状があります。
例えば、「今まで、好きで欠かさずに見ていた好きなスポーツ中継番組を見ても、以前のように面白いと思えなくなった」「身体を動かすのが好きだったのに、前のように楽しいと感じなくなった」というようなことです。
青春時代の楽しみが年齢とともに失われていくというのとはまったく違って、そういう症状が出る。うつ状態の症状です。何となく楽しくない、楽しめない。面白くない。
これは、アンヘドニア(失快楽)といって、今まで楽しいと思えていたことを実感として楽しめなくなる、「楽しい」と感じられなくなる、「わくわく」しなくなるという、「うつ」の症状の一つです。
「以前、好きだった〇〇よりも、いまは△△が楽しい!」というように、単に興味の対象が変わって、現在も心から楽しめる対象がある場合は、これはアンヘドニアには当たりません。
新しい楽しみを見つけたわけでもなく、これまで、楽しんでいたこと、好きだったことが楽しめなくなったという症状に思い当たり、上記の食欲や睡眠の様子など、その他の症状も既にあって、複数の症状が出ている場合は、うつの症状が表れている可能性があります。
できるだけ早期に精神科のクリニックを受診することをお勧めします。