腎臓を長持ちさせる「たんぱく質」「水分」「塩分」のとり方
第3回 「腎臓のために水分摂取を減らす」は間違い
田中美香=医療ジャーナリスト
健康寿命の生命線の1つ、「腎臓」の守り方を取り上げる本特集。尿検査や血液検査から分かる腎臓の異常のサインについて解説した第1回、第2回に続き、今回は腎機能の低下が気になる人向けに腎臓を守る生活のポイントを紹介する。腎臓の負担を減らすためには、水分はしっかりとるべきか、あるいはセーブするべきか、たんぱく質や塩分はどの程度に抑えればいいのか…よくある誤解を取り上げつつ、山積する疑問を解決していこう。
健康長寿の生命線 「腎臓」を守る 特集の内容
- 第1回これって腎臓の病気? 尿検査から分かる危険なサインを見逃すな
- 第2回腎臓はある日突然力尽きる 異常値が出たら放置は禁物
- 第3回腎臓を長持ちさせる「たんぱく質」「水分」「塩分」のとり方←今回
残された腎臓の機能を守るにはどんなことに気をつければいい?
加齢や高血圧、糖尿病などによって、じわじわと機能が落ちていく「腎臓」。腎臓の機能がゆっくり落ちていく病気の総称である「慢性腎臓病」が怖いのは、状態がかなり悪化してからようやく症状が出てくるところだ。しかも、一度落ちた腎機能は、生活改善や治療によって簡単に取り戻せるものではない(第2回参照)。
腎臓の検査値が悪くなり始めたら、残された腎機能を長持ちさせ、それ以上悪くならないよう対策を講ずることが大切だ。もし、腎臓の機能を悪化させる高血圧や糖尿病といった持病があるなら、それらの治療をしっかり受けて、血圧や血糖値を正常値に維持していくことも重要となる。そのうえで、腎臓をいたわる生活を心掛けていきたい。
では、具体的には日常生活においてどんなことに気をつければいいのだろうか。腎機能が低下してきた人の生活上の主な注意点を、表1にまとめた。
たんぱく質の摂取量を減らす
(そのぶん炭水化物と脂質で補う)
体重の増減が起こらないように注意する
水分をきちんととり、脱水が起きないように注意する
塩分摂取を減らす
血糖値や血圧が上がらないようにコントロールする
適度な運動を取り入れる
禁煙やストレス対策など
※推奨される食事や運動の程度は人によって異なるため、医師の指導を受けながら進めよう。ステージが進むとカリウムやリンの制限も必要になる。
3大栄養素のうち、腎臓の負担に関係するのはたんぱく質
「腎機能が落ちてきたとき、腎臓にかかる負担を減らすには、まずはたんぱく質の摂取を減らすことが大事です」と、横浜市立市民病院腎臓内科長の岩崎滋樹医師は話す。
腎臓が悪くなるとたんぱく質を制限しなければならない、と聞いたことのある人は多いだろう。腎機能が下がると尿にたんぱく質が出るようになり(たんぱく尿)、尿検査で引っかかってしまう(第1回参照)。そのことを踏まえると、「たんぱく質が尿中に出て失われているのに、なぜ摂取を抑えるのか? むしろ多く摂取するべきなのでは?」という疑問がわいてこないだろうか。
たんぱく質の制限が必要な理由について、岩崎医師は、「3大栄養素の特性を見れば分かります」と話す。3大栄養素とは、おなじみの炭水化物、脂質、たんぱく質だ。
3大栄養素のうち炭水化物と脂質は、体内で燃焼すると最終的に水と二酸化炭素に分解される。二酸化炭素は呼吸によって体の外に排出され、水は体に残っても害になることはない(図1)。

一方、たんぱく質の場合はそうもいかない。たんぱく質が体内で燃焼すると、そこに残るのは窒素化合物(尿素窒素や尿酸など)という最終産物(老廃物)だ。窒素化合物は呼吸によって排出されることはなく、腎臓から排出されるしかない。そのため、腎機能が下がっていると、たんぱく質の摂取量が増えれば増えるほど、血液中の老廃物をろ過する腎臓に負担がかかることになる。
「第2回でお話しした通り、腎機能が下がると老廃物をうまくろ過できなくなります。その状態でたんぱく質をとり過ぎると腎臓の負担がさらに増大するので、非常に良くない状況になります(図2-上)。でも、たんぱく質の摂取を減らして腎臓の負荷が半分になれば、急激な悪化を回避することが可能です(図2-下)」(岩崎医師)